東大ら,光の“ひずみ波”による固体相転移を発見

東京大学,筑波大学,仏レンヌ大学は,光照射によってTi3O5結晶中の構造が500fsで変形し,光が照射されたTi3O5表面から結晶中をピコ秒オーダーで伝搬するひずみ波によって,相転移が進行することを初めて観測した(ニュースリリース)。

2010年に室温で光スイッチング(書き込みと消去)が可能な新種の金属酸化物であるラムダ型-五酸化三チタン(λ-Ti3O5)が発見された。

λ-Ti3O5は,ありふれた金属イオンのチタンイオンと酸素イオンのみからできており,光誘起相転移現象に加えて,電流誘起相転移や長期蓄熱性能も見出されている。今回,Ti3O5に光を照射した直後の結晶構造変化を,スイスX線自由電子レーザー施設のフェムト秒時間分解X線回折実験により測定した。

フェムト秒レーザー照射により,価電子帯を構成するチタンイオンの位置が瞬時に変化して,部分的な体積変化により,光が当たっていない結晶内部も含めた格子体積および相分率の時間変化を観測した結果,λ-Ti3O5およびβ-Ti3O5の格子体積と微小ひずみ率,相分率ともに,0~16psにかけて直線的に増加することがわかった。

このことから,λ-Ti3O5の格子体積の増加と,β-Ti3O5からλ-Ti3O5への転移が同時に起こっていることが示唆され,ひずみの伝播(ひずみ波)が相転移に関わっていることが示唆された。弾性体モデルによる解析より,格子変形を良く再現する結果が得られた。また,音響ひずみ波の波面が結晶界面の100nmに到達するまでに16psかかるが,これは,β-Ti3O5の体積の極小点と一致しており,体積の大きいλ-Ti3O5に変化した部分により圧縮された結果と考えられるという。

今回,Ti3O5ナノ結晶のスイッチングが,伝搬するひずみ波面と同時にピコ秒スケールで起こり,熱拡散による相転移(~100ns)よりも桁違いに早いことが示唆された。この結果は,Ti3O5の光相転移が,熱によって誘起されるランダムな成長とは対照的に,転移がコヒーレントに伝播していることを示唆するもの。

このようなひずみ波伝搬による相転移現象の観測は初めて。ひずみ波をメカニズムとする相転移は,他のさまざまな固体物質においても適用できる可能性が高いと考えられるという。

なお,この研究は,EU大型施設Swiss-FELの初の時間分解X線粉末回折パイロット実験として観測された貴重な実験データであり,最新のX線自由電子レーザー(XFEL)光源を用いれば,原子の動きや格子歪みの伝搬をフェムト秒スケールのリアルタイムで調べることが可能であることを実証したものだとしている。

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