理研ら,金属らせんとTHz光の相互作用を可視化

理化学研究所(理研),同志社大学,京都大学は,藻類のスピルリナを鋳型として作製した微小な金属らせん構造から特定の方向にテラヘルツ光が放射される様子を,高性能テラヘルツ近接場顕微鏡を用いてリアルタイムに可視化することに成功した(ニュースリリース)。

近年,テラヘルツ周波数帯の電磁波(テラヘルツ光)を利用したさまざまな応用研究が進展している。特に,テラヘルツ光独自の特性を利用した新しいイメージングやセンシング,分光応用が実現しつつある。

また,テラヘルツ光は,次世代の超高速移動通信規格(6G)における重要な電磁波資源であり,Beyond 5G/6Gへ向けたテラヘルツ光関連デバイスの研究開発を,世界に先行して進めることが重要となる。

研究グループはまず,バイオテンプレート技術を用いて,藻類のスピルリナを金や銀,銅,ニッケルなどで無電解メッキし,微小な金属らせん構造(長さ約0.1mm,直径約0.03mm,線径約0.007mm)を作製した。らせん構造は,広帯域で軸方向,直交方向のどちらにも受信・放射できるヘリカルアンテナとしての動作を可能にする。

また,スピルリナの長さは,テラヘルツ光の波長と同等の100~200μm程度であることから,テラヘルツ光と効率良く相互作用することも期待される。このサイズの金属らせん構造は,バイオテンプレート技術であれば安価に大量生産が可能だという。

次に,テラヘルツ近接場顕微鏡を用いて,作製した微小金属らせん構造とテラヘルツ光との相互作用を調べた。その結果,テラヘルツ光によって励振された微小金属らせん構造から,特定の方向へ異なる周波数のテラヘルツ光が再放射される様子を,回折限界を超えたテラヘルツ光波長の10分の1程度の空間分解能と,フェムト秒の時間分解能でリアルタイムに可視化することに成功した。

テラヘルツ近接場顕微鏡を用いればテラヘルツ光を直接可視化できるだけでなく,さまざまなデバイスとの相互作用を優れた空間・時間分解能で克明に観測することが可能。これはアンテナをはじめとするさまざまなテラヘルツ関連デバイスを開発する上で有益なデータを得ることを可能とする。

今回の観測から,この微小金属らせん構造はテラヘルツの超広帯域かつ非常に高性能な微小アンテナとしての動作が期待できるという。また,テラヘルツ光は空間伝搬距離が短く,多くのアンテナが必要になると考えられるが,今回用いたバイオテンプレート技術は,低コストで大量に微小金属らせん構造を作製できるとしている。

その他関連ニュース

  • 京大ら,磁性薄膜のサブTHz磁化ダイナミクス評価 2023年03月17日
  • NICTら,19コア光ファイバで伝送容量の記録を更新 2023年03月16日
  • 香川大ら,非対称データ光通信を効率的に収容 2023年03月06日
  • レゾナック,新規R&D拠点で6G向け材料を開発 2023年02月14日
  • キヤノン,小型テラヘルツデバイスを開発 2023年01月18日
  • 東北大ら,新原理グラフェントランジスタでTHz検出 2022年12月15日
  • 筑波大,極短電子線パルスを簡便かつ汎用的に評価 2022年12月14日
  • 京大ら,超伝導針状結晶からテラヘルツ波放射に成功 2022年11月25日