九州大学は,熱処理が不要で市販のインクジェットプリンターと同様の技術で印刷可能な抗原抗体検査で利用できる光センサーを開発した(ニュースリリース)。
光を使った抗原抗体反応に基づくセンサーの一つに,微小レーザー素子を利用し,検出対象物が付着した際にその素子から発生するレーザーのスペクトルが変化することでセンシングするアプローチは,ウイルス1個程度を検出できる超高感度センサーが期待できる。
特に,アビジンとビオチンという分子の結合に基づく抗原抗体反応を利用する光センサーは感度と検出対象物の選択性の面で非常に優れているため,これを微小光共振器と組み合わせた研究が盛んに行なわれている。
アビジン-ビオチンの結合反応を微小光共振器で用いるには,ビオチンを微小光共振器の表面に共有結合させるためのビオチン化が必要だが,ポリマーやシリカ(ガラス)などを用いたバイオセンシング用の微小光共振器の作製には複雑な工程と複数のプロセスを要するという問題があった。
研究ではまず,ビオチン化が容易な親水性のカルボキシル官能基と疎水性のフッ素化官能基CF2の鎖を特徴とする新開発の低粘度特殊ポリマーを,独自のインクジェット印刷法を用いることで,バイオセンシング用の円盤型の微小光共振器に基づいた微小レーザー素子(マイクロディスクレーザー)として成型・印刷した。
ビオチン化した微小レーザー素子の基本性能を確認したところ,ビオチン化(無)の場合,微小レーザー素子の表面へ無秩序にアビジンの積層が続きスペクトルのシフトが継続したのに対して,ビオチン化(有)の場合,表層に修飾されたビオチンへの結合で形成されている単一のアビジン層に相当するスペクトルのシフトが観測され,ラベルフリーのセンシングの実証に成功した。
これにより,今後は数多くのアビジン修飾抗体などをマイクロディスク表面につけることで多彩なセンシングを行なう下地ができたとする。また,インクジェット描画が可能なポリマー上にビオチン化処理を施す技術は,他の光微小共振器やバイオセンシング用コートなどにも波及効果が期待できるという。
この微小レーザー素子がポータブルデバイス化されると,究極的には,自宅でウイルス検査を継続的に実施することも可能になる。さらに,経済的に恵まれない国や地域においても大量・繰り返し検査が容易に行なえるようになる。研究グループは,今後,現在研究を進める有機トポロジカル光共振器と今回のバイオセンシングの基盤を組み合わせ,より高性能なセンシング技術の確立へつなげていくとしている。