生理研,シナプスの情報伝達効率を光で強化

生理学研究所は,生きた動物内で脳神経細胞のシナプスの大きさや機能を1つずつ光で強化することが可能な光応答性酵素を開発した(ニュースリリース)。

シナプスの変化は,記憶や学習,またこれらに関係した神経疾患と深い関係があるため,個々のシナプスの状態を非侵襲的に操作することができれば,神経疾患の治療法の開発や記憶・学習メカニズムの解明が進むと考えられる。

研究では,非侵襲的にシナプスの状態を操作することを可能にするため,まず,シナプス可塑性に重要であると考えられる「CaMKII」と呼ばれるタンパク質に着目した。CaMKIIとは神経細胞の中に豊富に存在し,記憶や学習の基盤となる。

光照射の有無によってCaMKIIの活性化を操作可能にするため,CaMKIIに植物のタンパク質の光感受性部位を遺伝子工学的に融合し,青色光や集光した近赤外光の照射によって活性化する遺伝子コード型の光応答性CaMKIIの開発に成功した。

光応答性CaMKIIはDNAでコードされているため,DNAを細胞に導入すると,細胞内でそのDNAを使って光応答性CaMKIIのタンパク質が作られる。細胞内で作られた光応答性CaMKIIは光を照射することによって活性化するが,光照射されていない状態では活性化しない。

今回開発した光応答性CaMKIIが実際に光照射に対してどのように反応しているかを確かめるため,海馬スライスの神経細胞に光応答性CaMKIIを導入し光刺激を行なった。具体的には,2光子顕微鏡を用いて細胞を観察し,同時に光刺激を個々のシナプスのスパインと呼ばれる部位に与えた。

2光子励起を用いると組織深部で1μmという非常に狭い範囲で光刺激を行なうことができる。2光子励起の刺激範囲とスパインの大きさはほぼ同じなので,スパインに光刺激をすることによって,スパイン内の光応答性CaMKIIだけを活性化することができる。

実験の結果,光応答性CaMKIIを活性化させるとスパイン体積が数倍大きくなり,変化は4時間以上持続した。また,グルタミン酸受容体のスパインへの集積も同時に観察さた。これらの結果は,光刺激によって神経細胞同士の情報伝達効率が向上していることを示すという。さらに,研究では生きた個体動物脳内でもシナプスの強化ができることを明らかにした。

今回開発した分子デザインは細胞内に存在する様々なタンパク質に応用が可能なため,将来の光医療開発に繋がる画期的な成果だとしている。

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