理研ら,「二重スリット実験」に新たな知見

理化学研究所(理研),大阪府立大学,名城大学,日立製作所は共同で,新しく開発したV字型二重スリットを用いて「波動/粒子の二重性」に関する実験を行ない,電子の経路情報と干渉の発現の関係を明らかにした(ニュースリリース)。

研究グループは,ヤングの「二重スリット実験」における波動/粒子の二重性の不思議の実証を前進させ,電子の伝搬経路と干渉現象との関係の解明を目指し,現在,世界で最も可干渉性の高い電子線が利用できるホログラフィー電子顕微鏡を用いて実験を行なった。

一般に,従来の二重スリットを用いた干渉実験では,二重スリットに可干渉な波を入射し,両スリットで分割・通過した二つの波がスリットを出た後,伝搬する過程で広がり自然に重なる性質を利用する。しかし,スリットが十分に細い場合には,スリットを通過した波は急速に広がり互いに重なり合うため,どちらのスリットを通過した波かを区別するのは難しい。

今回,研究グループは,ホログラフィー電子顕微鏡の対物レンズを用いて結像させる結像光学系と,「V字型二重スリット」を用いることで,三つの干渉条件(前干渉条件,干渉条件,後干渉条件)を一つの視野で同時に観察する電子光学系を考案した。さらに,電子波の干渉装置である電子線バイプリズムを利用して,V字型二重スリットを焦点の合った(伝搬距離ゼロ)干渉条件で観察することに成功した。

これにより,粒子として検出された電子の経路をさかのぼり,左右どちらのスリットを通過したかを明らかにできる場合があること,経路情報が不足し通過スリットを同定できない場合にのみ干渉縞が観察されることを確認した。

量子力学では,どちらのスリットを通過するか見分ける実験を行なうと,その実験が与える影響によって電子の軌道が乱されてしまい,干渉が発現せず,干渉縞が観察されないと説明される。今回の研究では,どちらのスリットを通過したかを判定する実験は行なわず,電子を検出した後に,検出位置からさかのぼって,電子の経路と通過したスリットの同定を試みた。

しかし,結果は従来と同じで,どちらのスリットを通過したか見分けられた場合には干渉は発現せず,見分けられなかったときにだけ干渉が発現した。

以上の結果から,「電子がどちらのスリットを通過し,どちらの経路を通ったかの情報が不足している場合にのみ干渉が発現する」という解釈ができる。これは,近年光学の分野で偏光を用いて実施されている量子光学実験と符合する結果であり,二重スリットを通過して干渉した電子を分類する究極の実験「which-way experiment」への手がかりを得る結果だとしている。

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