東京大学は,ジルコニウムテルライドZrTe5(Zr:ジルコニウム,Te:テルル)が「弱い」トポロジカル絶縁体であることを初めて実証するとともに,ZrTe5結晶に圧力を印加すると,「弱い」トポロジカル絶縁体状態がさらに安定することを見だした(ニュースリリース)。
トポロジカル絶縁体状態は,原子数層の2次元的な絶縁体シート(トポロジカル原子層)で2007年に初めて実証された。トポロジカル原子層のエッジを沿う電子の流れは指向性の良い理想的なスピン流となる。
大きなスピン流を生成し活用するためには,トポロジカル原子層を積み重ねた3次元的な結晶が必要であり,その中でも,指向性を保持したまま大量のスピン流を生成可能だとされる3次元結晶が「弱い」トポロジカル絶縁体となる。ただ,その理想とは裏腹に,実際の物質では3次元結晶を構成する原子層同士が相互作用するため,スピン流は乱され,不安定になることが大きな問題だった。
研究では,放射光を用いたナノ顕微光電子分光,およびレーザーを用いたスピン分解・角度分解光電子分光を用いることで,ZrTe5において,「弱い」トポロジカル絶縁体に由来する表面電子状態を初めて見出した。これまでに発見された「弱い」トポロジカル絶縁体は数例しかないため,ZrTe5を用いた活発な研究が今後期待されるという。
また,ZrTe5結晶にネジで締め付ける程度の圧力を印加するだけで,面間の相互作用を軽減し,結晶を構成するトポロジカル原子層が本来もつ指向性の良いスピン流を安定化できることを見出し,より理想に近い安定した「弱い」トポロジカル絶縁体状態を実現できることを実験的に示した。
数多く発見されている「強い」トポロジカル絶縁体とは対照的に,「弱い」トポロジカル絶縁体の報告例はほんの数例しかなく,ZrTe5の「弱い」トポロジカル絶縁体状態を解明しこの物質を巡る論争に終止符を打った本研究の結果は物質科学にとって大きな進歩だという。研究グループは,この簡便な制御方向が,「弱い」トポロジカル絶縁体を応用利用する際に有用な道筋を与えるとしている。