阪大ら,ダイヤモンドで細胞内の熱伝導率を計測

大阪大学,シンガポール国立大学,豪クイーンズランド大学は,細胞の中の熱伝導率を測ることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

哺乳類や鳥類,さらに昆虫や植物に至るまで,多くの生物は熱産生することが知られている。熱産生の現場は細胞の中にあり,熱を産生する仕組みが詳しく調べられている。

ところが,非常に身近な生理現象であるにも関わらず,水を多く含んだ細胞の中で,熱の伝わり方を精密に調べる方法はこれまでなかった。そのため,細胞内の熱源から放出された熱が細胞内をどのように拡散し,細胞の機能に影響するのかといった,ごく基本的なことはほとんどわかっていない。

この未開拓の計測へ挑むために,研究グループは,約百nmのダイヤモンド粒子「ダイヤモンド量子センサー」に着目した。ダイヤモンド量子センサー内部には,量子情報を含むNVセンターと呼ばれる特殊な場所が存在し,温度や磁場といった周囲の環境情報を,読み取り可能な光の信号に変換する。

そこで,ダイヤモンド量子センサーを小さな温度計(ナノ温度計)として利用することにした。さらにダイヤモンド量子センサーの外側を,光を吸収して熱を放出する高分子でコーティングした(ナノヒーター)。こうして,ナノ温度計とナノヒーターが一体化した,ナノ領域の熱伝導率を計測できる新しいハイブリッドセンサーの開発に成功した。

このセンサーを従来は熱伝導率が水と同じだとされてきた細胞へ応用したところ,水に比べて約1/6ほど熱が伝わりにくい(熱伝導率が低い)ことが世界で初めて明らかとなった。細胞内の熱に関するパラメータの正しい計測は,熱拡散を理解する第一歩として重要な成果となる。

研究グループは今回の成果について,細胞の熱産生が関わるあらゆる基礎的な生物・医学研究に幅広く影響する点で重要であるだけでなく<肥満の解決や微小熱源を用いた新しい治療法の開発といった応用面への波及効果も期待されるものだとしている。

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