立命館大学,神戸大学,京都大学は,銅イオンをドープした硫化亜鉛のナノ結晶が,光に応答して素早く発色・消色する高速フォトクロミズムを示すことを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。
光によって物質の色が繰り返し変化する特性を示す材料であるフォトクロミック材料の中でも,特に光に応じてすぐに着色,消色するフォトクロミック材料は,紫外線の量に応じて自動で光量を調整するスマートサングラス,偽造防止材料,高速書き換えが可能なホログラム材料など,さまざまな産業用途への応用が期待されている。
その一方で,現状そのような特性をもつフォトクロミック材料は限られた有機化合物のみであり,安価で大量に合成できる新材料が求められていた。
研究では,古くから様々な産業分野で用いられてきた硫化亜鉛をナノ粒子化し,さらに銅イオンをドープすることにより,光の照射に伴い迅速に発色,消色するフォトクロミック材料を世界で初めて発見した。
銅イオンをドープした硫化亜鉛ナノ結晶の粉末に光を照射すると,光エネルギーを受け取って励起した電子と正孔ができる。研究グループは複数の計測,解析技術を駆使することにより,ドープされた銅イオンに捕捉された正孔と,粒子間を自由に伝播する励起電子がこの特徴的なフォトクロミズムの起源であることを明らかにした。
この研究によって,多くの産業で使用されてきた,安価で低毒性,さらに大量合成可能な硫化亜鉛の新しい可能性が見出された。自動調光機能をもつ窓ガラスや車のフロントガラス,三次元立体動画再生用のホログラム材,医薬品やブランドセキュリティのための偽造防止材など,従来の材料では難しかった大型,大量供給可能な高速フォトクロミック材料として幅広い応用が期待されるとしている。
また,今回明らかになったナノ結晶内で長時間存在する励起電子と正孔は,光触媒材料や蓄光材料においても重要な機能であり,新たなナノ材料として期待されるとする。このような複雑且つ新規な現象は,今回の研究で用いた複合的な計測,解析技術によって初めて明らかになったものであり,今後この研究手法を基盤としたさらなる新材料の発見が期待されるとしている。