筑波大学は,光(電磁波)と格子振動が相互作用した場合に形成される,フォノン-ポラリトンという準粒子の概念を用いて,ボゾンピークによるガラス特有の光吸収を表すことができる新しい誘電関数を提案した(ニュースリリース)。
一般に,結晶やガラスなどの原子が凝縮した構造を持つ物質では,電磁波を吸収する際に,その周波数に関して,テラヘルツ帯を境として,低周波数側では音波の性質,高周波数側では光学的な性質が現れる。
ガラス形成物質では,このテラヘルツ帯の境目で,ボゾンピークと呼ばれる普遍的励起(原子のエネルギーが高い状態に移る現象)が現れる。これは「音波の終わり」に現れるもので,ガラスの物理における未解決問題の一つとして⻑年議論されてきた。
このテラヘルツ帯に唯一現れるボゾンピークは,従来の基礎的な誘電関数(減衰調和振動子モデルおよびデバイ緩和モデル)で説明される物質の振る舞いから必ず外れてしまい,その定量評価を行なう上で困難をもたらしていた。
つまり,ガラスの普遍的かつ特異なテラヘルツ帯の吸収スペクトルを表現するための関数が存在しないため,実験データの理解が遅れてきた。これを理解し,さらに制御することは,基礎物理およびテラヘルツ帯域の通信技術の応用上も重要となる。
研究グループは,光(電磁波)と格子振動(結晶中の原子の振動)が相互作用した場合に,物質中を光がどのように伝搬するかを記述するフォノン-ポラリトンという準粒子の概念を用い,ボゾンピークに起因する特異なテラヘルツスペクトルを表すことが可能な,新しい誘電関数を提案した。
これにより,実験データに現れるスペクトル形状や吸収の強さを,理論計算で得られるスペクトルと定量的に比較することができ,従来は困難であった,ガラスのテラヘルツ帯吸収スペクトルの定量的解析を進めることが可能となる。
さらに,この関数は,ガラス以外の不規則系の準粒子におけるボゾンピークの現れ方を示すことができるため,格子振動のボゾンピークのみならず,磁性など他の性質に起因する新しいボゾンピークの発見や,その理解のために必要な基礎知見の構築にもつながると考えられるという。
研究グループは,今回の研究で提案された誘電関数を様々なガラス形成物質に適用することで,テラヘルツ帯吸収のスペクトル形状や吸収の強さの定量的な理解を行なうための基盤データ構築を行なう。このような基礎的な理解が進むことで,次世代通信技術におけるテラヘルツ帯窓材のデザインのための新指針提案などの応用研究の進展も期待されるとしている。