奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と花王は,材料工学分野にディープラーニング技術を適用する手法を開発した(ニュースリリース)。
今までの素材開発はトライアンドエラーを繰り返す方法で行なわれていた為,ディープラーニングを用いてAIに大量のデータを学習させ,予測を行なうことで開発プロセスを短くする方法が検討されてきた。
しかし,ディープラーニングには数万個のデータが必要であり,素材開発の現場で化学反応プロセスのデータを大量に取得するには多くの費用が掛かるため,実用化に至っていなかった。
そこで研究では触媒と樹脂を例に,少ないデータ量からディープラーニングで活性やガラス転移点の予測ができる技術の開発を行ない,また,なぜその予測にたどりついたのか,解釈の方法も確立した。
今回,2級アミンとアルコールを反応させた時の銅触媒の微細な構造を電子顕微鏡で撮影し,活性が高かった場合,低かった場合の違いをディープラーニングを用いて学習させることで,活性を上げる構造を予測するモデルを作成した。
具体的には,電子顕微鏡写真143枚に対し,写真の一部を切り出す,複写する等の処理を行ない,10,000枚に増加させた。これらをディープラーニングで解析し,活性予測モデルを作成した。さらに,活性が触媒のどの場所で起こっているかを確認するため,画像を作成した。
作成した予測モデルを確認したところ,非常に高精度なモデルの作成に成功したことがわかった。また,触媒中には反応原料が拡散するための穴であるメソポアとマクロポアが存在するが,今回得た画像から,マクロポアの周辺の構造が活性に影響を与えているという予想が得られた。
プラスチック容器など樹脂の開発では,ガラス転移点が75℃の樹脂で作った容器に85℃の飲料を入れると容器が変形してしまうため,用途に合わせて樹脂のガラス転移点をコントロールする必要がある。今回はポリエステル樹脂において,化学構造からガラス転移点を予測するモデルを作成した。
不足しているデータ量を補うため,一般公開されている外部の化学構造のデータベースを読み込ませてディープラーニングで解析し,ガラス転移点予測モデルを作成した。さらに,化学構造のどこがガラス転移点に影響を与えているのかを確認するため,画像を作成した。
予測モデルを分析評価した結果,転移点の温度を精度良く予測できていた。さらに,ガラス転移点に大きな影響を及ぼさないと考えられていたベンゼン環に対する官能基の置換位置が,ガラス転移点に大きな影響を与えていることもわかった。
研究グループはこの技術により,効率的に素材開発を行なうことができるようになるとしている。