東京工業大学は,環状白金チオラート六核錯体に銀イオンを包摂して結晶化することで,銀包摂前の錯体と比べて18倍の発光量子収率を持つ合金クラスター化合物を得ることに成功した(ニュースリリース)。
近年,金や銀といった貴金属のコアを有する配位子保護金属クラスターが新たな発光性の量子ドット(QD)材料として期待され始めている。
発光性の配位子保護金属クラスターは,従来のナノ材料とは異なり,有毒元素(Cd,Pb,Se)を含まないという安全性と,有機色素のような凝集状態で消光する傾向があまりみられないという実用性から,白色LED用発光体などの固体デバイスへの応用が進められている。
しかし,こうしたクラスターは量子収率が0.1%に満たないなど,発光効率に課題があった。最近になって,凝集誘起発光や異種金属ドープによる合金化によって発光効率が向上することが報告されてはいるが,なぜ発光が増強されるのかという詳しいメカニズムや,優れた発光材料の設計指針は明らかになっていなかった。
今回の研究では,構造がシンプルな環状白金チオラート六核錯体を前駆体として用いて,そこへ銀イオンを包摂することで銀白金合金クラスターを合成した。銀を含まない環状白金チオラート多核錯体と銀を含む銀白金合金クラスターの構造や発光特性の違いを検証して,銀白金の合金効果を明らかにした。その結果,銀イオン包摂によって環状白金チオラート多核錯体由来の環構造の歪みが抑えられて,発光効率が向上することを発見した。
今回,従来の配位子保護金属クラスターよりもシンプルな分子構造に注目することで,合金化の効果を詳細に明らかにできた。研究グループは,銀イオンを中心に配位した構造がクラスターの安定化に寄与していると考えられることから,バイオイメージングや白色LEDへの応用に向けた配位子保護金属クラスターの新たな設計指針として期待されるとしている。