日本原子力研究開発機構(JAEA)は,実験のニーズに応じた多様な微小出力陽子ビームを大出力陽子ビームから安定して取り出す技術を,ビームエネルギー3MeVの陽子加速器に適用し,多様な出力の陽子ビームを取り出すことに成功した(ニュースリリース)。
原研のJ-PARCセンターでは,原子力発電所から発生する放射性廃棄物を効率よく減容・有害度低減するための加速器駆動核変換システム(ADS)による分離変換技術の実現に向けて,基礎的な研究を行なう核変換実験施設(TEF)を検討してきた。
TEFは,ターゲット試験や核変換の対象となる放射性物質の核変換特性試験などを通して,ADSの実用化に必要なデータ・知見を取得するための実験施設。
TEFは現在,建設に向けて設計検討の段階だが,ターゲット試験のためにエネルギー400MeVの大出力陽子ビームを供給する予定。また,核変換特性試験のために,エネルギーは同じく400MeVだが,出力の微小な陽子ビームを供給する予定。
特に,核変換特性試験では,ビームの強さやその時間幅を変えた陽子ビームが必要になる。そのためには,J-PARCの特長である大出力陽子ビームから最大で2万5千分の1という極めて微小な出力の陽子ビームを取り出すことになる。
そこで研究グループは,レーザーで陽子ビームを診断する技術に着目し,複数の高出力レーザー光源を選択的に使用して,陽子ビームの出力を制御する独自の技術を考案した。安定した微小出力陽子ビームを取り出すため,電磁石内で陽子ビームとレーザー光を衝突させながら,衝突点におけるレーザー光の位置を高い精度で制御するシステムを構築した。
ビームエネルギー3MeVの陽子加速器とこの技術を組み合わせた試験により,核変換特性試験に必要な微小出力陽子ビームを安定して取り出すことに成功した。また,取り出された陽子ビームの出力が理論的な予測値と一致することを確認した。
この技術により,J-PARCを活用してADSの研究開発を推進するための一つのマイルストーンを達成したとする。研究グループは,今後,極短パルス陽子ビームや低出力長パルス陽子ビームなど,多様なビーム利用のさらなる発展に繋がることが期待されるとしている。