金沢大学,産業技術総合研究所,独フランホーファー研究機構は共同で,単結晶シリコン上にヘテロエピタキシャル成長によるダイヤモンド膜から作製したダイヤモンド自立基板を用いて反転層チャネルMOSFETを作製し,その動作実証に世界で初めて成功した(ニューリリース)。
半導体デバイスの省エネ化とともにインテリジェント化のコア技術として,次世代ワイドバンドギャップ半導体の開発が期待されている。
その中でも特に高い絶縁破壊電界とキャリア移動度,熱伝導率,長時間の量子情報保持などの特長を有するダイヤモンドは,究極の半導体デバイス材料として期待されているが,基板コストや製造プロセスに関する課題がダイヤモンド半導体の応用を大きく制限している。
これまで,金沢大学の研究グループは単結晶ダイヤモンドを用いた反転層チャネルMOSFETでの動作実証には成功していたが,単結晶ダイヤモンド基板は10mm角程度が最大であり,ダイヤモンドMOSFETの社会実装にはダイヤモンド基板の大面積化が大きな課題の一つだった。
今回研究グループは,単結晶シリコン(111)基板上にヘテロエピタキシャル成長によるダイヤモンド膜(ダイヤモンド-on-シリコン技術)から作製したダイヤモンド自立基板を用いて反転層チャネルMOSFETを作製し,その動作実証に成功した。
反転層チャネルMOSFETは,原理的にノーマリーオフ特性を示し,ゲート電圧制御であるため省エネ性にも優れ,世界で最も広く利用されるパワーデバイス構造でもある。その一方で,反転層チャネルMOSFETは,表面構造など,結晶品質にそのデバイス特性が大きく左右される。
今回,ヘテロエピタキシャルダイヤモンド自立基板上に作製したMOSFETの動作を調べたところ,明確なノーマリーオフ特性を示した。ホモエピタキシャルダイヤモンドと比べると結晶品質が劣るものの,そのデバイス特性としては遜色のないドレイン電流が流れることを確認した。
研究グループは,今後,この研究成果を発展させ,市販されている300mmウェハの単結晶シリコンを使用することにより,単結晶ダイヤモンドウエハーの課題であった大面積化・低コスト化を解決したいとする。従来の大量生産可能なプロセス装置をそのまま利用できるメリットもあるため,ダイヤモンド半導体の実用化に向けて大きく前進することが期待できるとしている。