筑波大学は電子スピン共鳴を活用し,従来の手法では困難であったペロブスカイト太陽電池の劣化機構を分子レベルで解明することに成功した(ニューリリース)。
ペロブスカイト太陽電池の実用化のためには,劣化機構を解明して長寿命な製品を作ることが重要となる。しかし,従来の研究手法では,内因的な劣化要因を詳細に,特に分子レベルのミクロな観点から直接的に解明することはできず,新たな手法の開発が求められていた。
電子スピン共鳴は材料を非破壊,高感度かつ高精度に研究できる。今回,電子スピン測定用に独自に開発した太陽電池の構造を生かし,電子スピン共鳴と太陽電池の性能を同時に計測する,世界で初めて開発した測定手法を用いた。
具体的には,電子スピン共鳴を活用し,太陽電池が動作している状態で,太陽電池内部の電荷状態(スピン状態)の変化を分子レベルで直接的に捉えた。
電子スピン共鳴では電子の持つ自転の自由度(スピン)を用いた磁気共鳴現象による電磁波(マイクロ波)の吸収を測定すると,その吸収の微分形の信号が光照射時間と共に増加する。また,信号を2回積分して標準試料と比較することで,太陽電池に含まれるスピンを持つ電荷の数(スピン数)が算出できる。
そのスピン数と疑似太陽光を太陽電池に照射した時の応答から,スピン数が太陽電池の性能(電流や電圧)と強く相関していることを見出した。そして,太陽電池の性能が変化する要因が,太陽電池の構成材料である正孔輸送層のドーピングの状態変化にあることを明らかにした。
この変化は,正孔輸送層での正孔輸送能力の向上や低下をもたらし,太陽電池の電流を増加や減少させる。さらに,正孔輸送層界面で電気双極子層を形成し,太陽電池の電圧を減少させる。
また,疑似太陽光に含まれる紫外光がペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層のドーピング効果を劣化させていることも分かった。紫外光を照射した場合,光照射終了後の暗状態においてもスピン数が減少し続けた。
この減少は,ペロブスカイト層に生じたピンホールにより,正孔輸送層と電子輸送層が直接接触し,紫外光照射下で電子輸送層に生じた電子が,本来起こってはならない正孔輸送層に移動し,暗状態でも持続的に正孔輸送層のドーピング効果を減少させていることを意味するという。
今回開発した手法により,太陽電池の性能の劣化を防ぐために必要な,太陽電池の動作機構と劣化機構に関連する太陽電池内部の分子レベルでの情報を提供できるようになった。研究グループは,この手法が他の太陽電池の研究にも有用であるとしている。