名古屋大学と兵庫県立粒子線医療センターは,がん治療に用いる炭素線を水に照射したときに生じる発光画像に含まれるチェレンコフ光が偏光している性質を利用し,その成分を,偏光フィルターを利用することにより分離し,正確な線量画像を得ることに成功した(ニューリリース)。
陽子線や炭素線などの粒子線がん治療ビームの線量分布を短時間に正確に測定することは,粒子線治療の現場で切望されている。
研究グループは,これまでに粒子線が水中で微弱光を発することを発見し,この光を高感度カメラで撮像することで粒子線が水に与える線量と類似の分布を画像化できることを報告した。
しかし,得られた画像にはチェレンコフ光に起因する発光が含まれることがあり,線量と分布が異なる問題点があった。今回研究グループはチェレンコフ光が進行方向に偏光している性質に着目し,偏光フィルターにより,チェレンコフ光成分を分離することを試みた。
しかし一方で,放射線照射時に発生する微弱光は偏光しているかどうかは全く不明だった。そこで,発光画像測定装置を用いて,炭素線照射時の発光を,偏光フィルターの方向を変えて撮像した。
その結果,水の浅い部分に生じるチェレンコフ光の輝度に違いのある画像が得られた。予想通り,偏光フィルターの方向が炭素線ビームに平行な場合に高輝度のチェレンコフ光画像が得られた。一方で,水の微弱光の輝度は偏光フィルターの方向に無関係で、偏光していないことが分かった。
さらに,画像間の演算によりチェレンコフ光のみの画像を分離して得ることに成功した。また,分離したチェレンコフ光を用いて実測画像からチェレンコフ光成分を除去することで線量画像を生成することにも成功した。
これは,これまで分離が不可能であった,水の微弱光とチェレンコフ光を光学的に分離し,チェレンコフ光の除去に使えることを示した世界初の成果となる。研究グループは今後,粒子線治療のみならず,偏光が関係する放射線物理研究に応用されることが期待されるとしている。