東北大学は,STT-MRAMの主要構成要素である磁気トンネル接合(MTJ)に新しい構造を採用することで,車載応用に必要とされる高温でのデータ保持特性を維持しながら,DRAMなどのワーキングメモリーの置き換えに必要とされる高速低電圧動作を実証した(ニューリリース)。
今回研究グループは,2018年に提案した従来型の形状磁気異方性MTJにおける課題を解決するために,形状磁気異方性に加えて新たに静磁気結合を利用する新しい構造を開発した。
静磁気結合した積層磁性体を用いた形状磁気異方性MTJ構造を設計し,実際にシリコン基板上に素子を作製した。そして直径2.3nmまでの微細化に成功した。この2.3nmというサイズは,物質中の原子と原子の間隔が約0.2nmなので,わずか原子10個程度が一方向に並んだ究極の微細スケールであることを意味する。
素子には現在の量産化が進められているMTJ素子と同じCoFeB/MgO材料を用いた。成膜および微細加工プロセス条件を精密に制御することによって,低消費電力に必要となる低い抵抗面積積を有し,直径2.3nmまでの極微細MTJの形成に成功した。
作製した素子特性を評価したところ,データ保持特性の指標となる熱安定指数は,(1)室温にて直径3.5nmのMTJ素子においても主要なアプリーケーションで必要とされる値である80を満たし,また(2)車載応用に必要とされる150℃にて直径 7.6nmのMTJ 素子において70を上回ることを確認した。
情報書き換え特性についても,直径5nm以下(最小直径3.5nm)のMTJで,印加電圧1V以下の電圧パルスによる磁化反転を室温で実現した。またDRAMなどのワーキングメモリの置き換えに必要となる10ナノ秒での高速動作も直径7.6nmのMTJで実現したという。
加えて,静磁気結合積層構造を有する形状磁気異方性MTJは,現在量産が進められている界面磁気異方性MTJと比べて,電流による磁化反転の効率が3倍以上高くなることも確認したとする。
この研究により,超大容量・低消費電力・高性能不揮発性メモリ,およびそれを用いた超高性能低消費電力集積回路の開発が加速することが期待されるとしている。