理研,無機ナノシートと水で光反応ゲルを作成

理化学研究所(理研)は,無機ナノシートと水のみを利用して,温度や光などの刺激に応答し,生き物のように力学物性を動的に変える「ハイドロゲル」の開発に成功した(ニュースリリース)。

二次元物質である酸化チタンナノシートは,厚さ0.75nm,横幅が数μmであり,表面に高密度の負電荷を帯びている。水中では,ナノシートの間に静電斥力とファンデルワールス引力が働き,これら二つの力が長距離で拮抗する結果,それぞれのナノシートが一定間隔を保ったラメラ構造(層状の材料が交互に並んだ微細な構造)を形成する。

研究グループは酸化チタンナノシートと水のみからなるハイドロゲルを作成し,室温(25℃)でナノシート濃度を上げたところ,8wt%以上で柔らかいゲルの性質を示すことが分かった。研究グループは過去に,温度変化により,ナノシート間に働く静電斥力を可逆的に制御できることを見いだしている。そこで,得られたゲルの温度を25℃から90℃まで上昇させたところ,55℃付近で柔らかいゲルから硬いゲルへと転移した。

この転移は,ナノシートネットワークの大胆な構造変化を伴うが,高温に達してから2秒以内で完了した。また,低温にすると元の柔らかいゲルに戻ることも分かった。この動的プロセスは何度も繰り返すことができ,高い耐久性を示すという。

温度を変化させて力学物性の測定を行なったところ,90℃の硬いゲルは,25℃の柔らかいゲルに比べて約23倍も硬くなることが分かり,この動的プロセスも可逆的であることが明らかになった。

さらに,得られた柔らかいゲルに微量の光熱変換ナノ粒子(直径17nmの金ナノ粒子)を添加することで,時空間的な物性制御を試みた。その結果,光を照射した箇所のみ選択的に硬いゲルへと転移させることにも成功した。この転移プロセスは非常に高速であり,わずか2秒間の光照射によって完了したという。光照射を停止すると,空冷により4秒程度で柔らかいゲルへと戻った。

今回開発した無機ナノシートと水のみからなるハイドロゲルは,温度や光などの刺激に応答して内部のナノシートネットワーク構造を動的に組み換えた結果,生き物のような動的機能を示した。

今回のハイドロゲルネットワークは無機ナノシートという二次元物質で構成されることから,従来の一次元物質で問題となるネットワーク同士の絡み合いを防ぎ,高速かつ可逆的な刺激応答性を実現したと考えられるという。

このような二次元物質のネットワーク構造は,次世代のスマートマテリアルの新たな設計指針となると期待できるとともに,刺激応答性ソフトマテリアルの設計において,無機物質の利用という新たな選択肢を提示するものとしている。

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