農工大ら,テラヘルツ帯ポンププローブ機構を開発


東京農工大学と台湾国立交通大学は,分子や電子の回転を含む複雑な動きに合わせテラヘルツ周波数で振動させるポンプレーザーパルスと,その後の振動変化の様子を観察するためのプローブレーザーパルスの制御機構を開発した(ニュースリリース)。

ポンププローブ分光法は主に可視光-近赤外領域(フェムト秒の周期)において活用されているが,大多数の生体関連分子,また導体中の電子は可視光よりもはるかに遅いテラヘルツ周波数領域において特有の振動を示す。そのためレーザーパルスによる振動制御はテラヘルツ周波数領域に適応した技術が求められている。

テラヘルツ周波数で分子や電子を振動させるポンプパルスと,振動を経過観察することができるプローブパルスを生成するために,マイケルソン干渉計を利用したレーザーパルス制御機構を開発した。この装置は偏光ビームスプリッターでレーザーパルスを2方向の成分に分離することを特徴とする。

両アームの終端のミラーによってそれぞれのレーザーパルスのタイミングが調整され,テラヘルツ周波数で偏光方向が回転するプローブパルスが生成される。さらに各終端のミラーの手前にハーフミラーを設置することで,同様の原理により偏光方向が回転するポンプパルスが追加される。

この装置を用い,合計4つのミラーの位置を調整するだけで,偏光方向がテラヘルツ周波数で回転するポンプ-プローブパルスの回転方向,回転周波数,2つのパルスの時間間隔をそれぞれ独立に調整することに成功した。

開発したレーザーパルスの偏光回転調整機構は,空間位相変調機を使用した従来の手法と比べると選べる時間間隔がフェムト秒からナノ秒までと広く,また5mJの強力なレーザーパルスにも耐えうるもので,対象となる物質や現象の選択肢がより広い顕微鏡としての発展が期待される。

また,この装置で生成したレーザーパルスは,分子や電子の直線的な振動だけでなく,回転を含むような複雑な振動に対しても追随して発振させることができるという。さらにそのレーザーパルスをハーフミラーで追加することによりその運動の変化を観察する機能が追加された。

これにより,導体中の電子に回転(角運動量)を伝え,光-電気通信に対して根本的に情報量を追加する提案や,右手系と左手系で性質の違うキラル分子の構造制御-観察など医療や薬剤への応用まで幅広い活用が見込まれるといい,光学,電子輸送,化学,生体医用など各分野の専門家との共同研究が計画されているとしている。

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