神戸大学,国立医薬品食品衛生研究所,ベルギー ルーヴァン・カトリック大学,京都大学,国立遺伝学研究所は,紫外線によって生じるDNA損傷の認識・修復においてユビキチン-プロテアソーム系が関与する制御機構を明らかにした(ニュースリリース)。
太陽の光に含まれる紫外線はDNA損傷を引き起こす。通常,細胞の中にはDNA損傷を修復するシステムが備わっているため,太陽の光を毎日浴びても問題なく日常生活を送れる。しかし,色素性乾皮症(XP)の患者はこれらの修復システムに生まれつき異常があるためDNA損傷をうまく修復できず,太陽の光が当たった部分に皮膚がんを発生しやすいことが知られている。
さらに,細胞内のタンパク質は必要に応じて作られたり分解されたりするが,その分解を担当している重要なシステムの一つとして「ユビキチン-プロテアソーム系」が知られている。紫外線によって生じたDNA損傷の修復とユビキチン-プロテアソーム系が細胞内で共同して働くことは以前から指摘されていたが,その詳しいメカニズムは不明だった。
研究グループは,独自の顕微鏡システムを構築した。これは,共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡をベースとして,紫外線によって誘導されるDNA損傷に対する細胞の応答をリアルタイムで観察できるシステム。780nmのフェムト秒レーザーと三光子吸収を利用して,260nmの紫外線に相当する刺激を導入できる。
これにより,紫外線によって引き起こされるDNA損傷に対するさまざまなタンパク質の動きを生きた細胞で観察することに成功した。XPの原因遺伝子産物の一つであり,紫外線によって生じたDNA損傷の認識を担うDDB2タンパク質とユビキチン-プロテアソーム系が共同してDNA修復の促進に関与していることを新たに見出した。
さらに,プロテアソームの働きを薬剤で阻害すると,プロテアソーム自身が細胞の核内で巨大な凝集体を形成し,これにトラップされたDDB2タンパク質がDNA損傷修復に関与できなくなることがわかった。正常なプロテアソームの構築を妨げると,このような凝集体の形成は見られなくなったが,一方でDDB2タンパク質のDNA損傷への集まりが著しく抑えられた。
これらの結果から,プロテアソームのタンパク質分解活性と,構造体としてのプロテアソームの完全性が,それぞれ別のメカニズムでDDB2タンパク質を介したDNA損傷修復の制御に関わることがはじめて明らかになったという。
この成果は皮膚がんなどの発症メカニズムの解明に貢献するとともに,がんの発症を抑制する薬剤開発に寄与するとしている。