東京大学は,乳がんの新たなバイオマーカーとして,α-マンノシダーゼ2C1(MAN2C1)を発見し,肉眼では識別の難しい微小な乳がんを迅速かつ高感度に光らせる事に成功した(ニュースリリース)。
乳がんの早期では手術による摘出が行なわれる。そこでは微小ながんの取り残しによる再発や,術中の良性腫瘍との識別などが患者の予後を左右する課題となっている。そのため,乳がん組織だけを迅速かつ高感度に可視化できる手法や,乳がんと良性腫瘍を術中に迅速識別できる手法の開発が強く望まれていた。
研究グループは,乳がんの糖質加水分解酵素(糖鎖を分解する酵素群)に新たに着目し,12種類の糖質加水分解酵素の活性を高感度に光らせて検出する蛍光プローブを開発した。これらの蛍光プローブは分子骨格に糖基質が組み込まれている状態では無色・無蛍光性の分子だが,標的の糖質加水分解酵素と反応すると,糖との結合が加水分解され蛍光性の分子へと変換される。
研究グループは,開発した蛍光プローブ群を,乳がん患者から摘出した乳がん組織と正常乳腺組織に添加して蛍光変化を比較評価する事により,α-マンノシダーゼ(糖質加水分解酵素のひとつ)の活性を光らせる蛍光プローブが乳がん組織を正常組織と見分けて高い感度・特異度で光らせる事が可能である事を発見した。
さらに,α-マンノシダーゼの中でもα-マンノシダーゼ2C1 (MAN2C1)と呼ばれるタイプの酵素が乳がんを光らせる鍵となっている事を突き止め,この酵素の活性と発現量が正常組織に比べて乳がん組織で上がっている事を新たに発見した。
実際に,このα-マンノシダーゼの活性を光らせる試薬は,がんが疑われる部位へ散布するだけで,肉眼では確認できない1mm以下の微小な乳がん組織まで10分程度で迅速かつ精確に光らせる事ができたという。
また研究グループは,乳腺の良性腫瘍である乳腺線維腺腫(FA)ではMAN2C1の活性が乳がんよりも高い傾向にある事を見出した。この結果から,良性腫瘍FAに強く応答するMAN2C1を標的とした緑色蛍光プローブと,乳がん(悪性腫瘍)と良性腫瘍において同様に応答する赤色蛍光プローブを組み合わせることで,悪性腫瘍と良性腫瘍を異なる蛍光色で識別する技術を開発した。実際にこれらの二つの蛍光プローブをカクテルにして両腫瘍に散布したところ,悪性腫瘍組織は赤色に,良性腫瘍組織は黄色に可視化された。
今回見出した蛍光プローブを乳がん手術で切除した部位の断端などに散布する事で,がんの取り残しを防げる。また乳がん以外でも標的酵素の探索に応用できる事が期待されるとしている。