東京大学は,金属ナノ粒子中の電子のさざ波(局在プラズモン共鳴)により光の持つ運動量を制御し,その反作用としてナノ粒子に働く光の力(光圧)を利用して微小マシンを動かすことに成功した(ニュースリリース)。
光の運動量変化の反作用として生じる光圧を利用した光ピンセットは,非破壊で物体を操作する技術として数多くの研究が進められてきた。特に,微小マシンを駆動する方法として応用の範囲を拡大してきた。
この光駆動マシンは,レーザー光を構造化(集光)・走査することにより,精密で複雑な操作が実現されてきた。しかし,照射レーザー光の空間パターンによって光圧の方向を制御する光ピンセットの場合,光の回折による限界を避けることは出来ず,光の波長スケールより微細な光圧による操作を実現できなかった。
また,集光光学系を用いる必要性から操作できる範囲がマイクロメートル(10-6m)に制限される。さらに,微小マシンの材質は,光吸収がなく屈折率が大きい必要性があるなどの制限が,光駆動マシンの集積化・階層的構造化や実装を阻んでいた。
研究グループは,これらの制限を回避するため,照射レーザー光を集光・走査する代わりに,光の受け手側である金属ナノ粒子の局在プラズモン共鳴により光運動量変化を制御し,このナノ粒子を微細加工技術によって配列することで,光の回折限界を超えた分解能で光圧の配列を精密にデザインする新しいアプローチを考案した。
長さの異なる金ナノロッドペアは,局在プラズモン共鳴により構造面内の一方向に高強度の光散乱を生み出すことができる。この散乱光の持つ運動量の反作用により,散乱方向と逆向きの光圧がロッドペアに働くことを発見した。
この新しい光圧の最大の特長は,従来の光圧と異なり,ロッドペアの向きで光圧の方向を制御できる点にあるという。そこで,このロッドペアをシリカ構造内部に一方向に配列したサンプルを作製し,ライン状に光を照明することで,液中で光の道を走るリニアモーターカーの観察に成功した。
さらに,光の回折限界を超えた間隔で環状にロッドペアを配列したサンプルの光照射に伴う回転運動も実現し,ロッドペアの配列によりナノ空間にナノモーターを精密にデザインできることを明らかにした。
このナノモーターは,原理的には太陽光でさえ駆動させることができ,光で駆動するナノロボットやナノ工場の実現が期待される。生体分子モーターと同程度の大きさの力を発生するので,分子モーターが関わる生体機能の計測・制御が可能になるほか,ドラッグデリバリーといったナノ医療に向けた展開も期待できるとしている。