NIMSら,機械学習で薄膜作製プロセスを高速化

物質・材料研究機構(NIMS)と東京大学は,材料開発に欠かせない薄膜作製プロセスに機械学習を応用することで,高品位な試料を作製する最適条件の探索を高速化する技術を開発した(ニュースリリース)。

厚さがナノメートルスケールの薄膜試料の作製は,目的や用途,材料の種類を問わず,基礎から産業応用まで幅広い研究開発の現場で利用されている。

その作製には,高品位な試料の高い再現性が求められる一方,薄膜作製には温度や原料の供給速度など多数のパラメーターが影響するため,再現性の高い最適な組み合わせを見出すには,時に数百回という試行が必要となる。そこで、少ない試行回数で最適な条件を見出す手法が求められていた。

研究では,独自開発した分子線エピタキシー装置を用いた窒化チタン薄膜の作製実験において,薄膜作製パラメーター最適化プロセスの高効率化を目的に,機械学習を導入した。窒化チタンは,物性基礎研究や半導体産業,量子コンピューターの素子の材料等,種々の分野で着目されている重要な物質。

異なる薄膜作製パラメーターで作製した数回分(研究では6回分)の薄膜試料の評価結果を初期実験結果として学習データとして用い,次回以降の薄膜作製パラメーターを機械学習(ベイズ最適化)で推定した。ベイズ最適化で推定した推奨薄膜作製条件で,薄膜試料を作製し,作製した薄膜試料をX線回折測定で結晶性を評価し,その結果を機械学習の推定のためのデータに加え,次回の薄膜作製パラメーターの推定を行なった。

その結果,6回の初期実験を含む,11回の薄膜作製実験で,薄膜作製パラメーターの最適な組み合わせの決定に成功した。最適な薄膜作製条件で作製した窒化チタン薄膜は,高い結晶性のエピタキシャル薄膜試料で,同物質において最高レベルの超伝導転移温度(5ケルビン以上)を実現し,機械学習を用いたこの手法が,薄膜作製プロセスの高効率化に有効であることが明らかになった。

今回開発した技術は,試料作製の回数も数分の1から10分の1程度と大幅に低減できるほか,外部データベースが必要ないため導入コストも抑えることができる。研究グループでは,今後,基礎研究から生産工程まで様々な場面で,労力と時間を低減する汎用的な技術としての活用が期待されるとしている

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