北海道大学の研究グループは,室温環境下で電子スピン情報を光の偏光情報に高効率に変換できる新しい半導体ナノ材料を開発した(ニュースリリース)。
スピントロニクスでは,スピン情報を安定的に保持できる金属強磁性体の使用が必須だが,金属では原理的にスピン情報を光情報に変換する光デバイスが作製できない。一方,光デバイス材料として広く知られている III-V族化合物半導体ではスピンの緩和現象が避けられないため,スピン情報が刻一刻と失われてしまう。そのため,金属強磁性体から電子のスピン情報を半導体に輸送・注入するとともに,スピン情報を光情報に高効率に光電変換できる光源材料の開発が強く求められている。
数10nm以下の半導体単結晶である量子ドットは,電子と正孔を空間的に同じ場所に閉じ込めることで発光効率を高めることができるため,将来の超低消費電力光デバイス材料の本命として注目されている。一方,半導体の電子スピンと光の円偏光特性の間に角運動量保存に基づく光電スピン変換機能が存在する。
量子ドットは三次元方向の量子閉じ込め効果により,光電変換中に電子のスピン状態を保持できるため,スピン情報を円偏光情報に変換するナノ材料として期待されている。しかし,実用上重要となる室温では高効率な光電スピン変換は実現できていなかった。
今回,研究グループは量子ドットの両側に量子井戸層が設けられたdot-in-well構造に注目し,そこで,疑似量子ドットが薄い量子井戸層に形成され,量子ドットに匹敵する強い量子効果を示すことを見出した。
この特異なナノ構造において,量子井戸層での高い発光効率によりスピン反転した電子の量子ドットへの再注入が抑制されるとともに,疑似量子ドットの形成によりスピン情報の熱損失が低減し,室温で約80%の光電スピン変換効率を達成した。
超低消費電力のレーザー動作を目指した量子ドット光デバイスにおいては,100℃を超える高温環境下においてもレーザー動作が実証されている。そこでは,研究で注目したdot-inwell構造を採用しているため,スピン機能を搭載したレーザーの高温動作が今後期待できるとする。
また,この研究の発展により,量子ドットを埋め込む量子井戸層を真の量子ドット層に置き換えることができれば,スピン情報の熱損失を一層低減することができ,光電スピン変換効率の更なる向上が期待できるという。
さらに,半導体量子ドットを情報変換媒体とし,スピン情報の円偏光情報への高効率な光電変換を実現することにより,スピン情報の光インターコネクションの実現が可能になるとしている。