名古屋工業大学,富士電機,電力中央研究所,昭和電工,産業技術総合研究所は,SiC中の電気特性の微細な分布を世界最高の空間分解能で測定する技術を確立し,装置を開発した(ニュースリリース)。
SiC結晶によるパワーデバイスは一部の分野で実用化が始まっている。さらに,発電所から送電される電力などの電力インフラにおいて使用するには,結晶内部の電気特性の分布を制御する必要があるが,パワーデバイス作製後の分布が実際に設計通り制御されているのかを可視化することは困難だった。
研究では,0.65という開口数の大きい対物レンズを通して,電子と正孔を作る波長の短いレーザー(355nm)と,電子と正孔により吸収される波長のレーザー(405nm)を集光してSiCに照射する装置を開発した。電子と正孔の量の時間変化,つまり電気特性の時間変化は,透過する405nmの光の強度の時間変化により測定できる。
光を絞ることができる開口数の大きい対物レンズを使用することと,波長405nmという比較的短い波長の光を使うことで,狭い領域のみの電子と正孔の量を観測できることが,この装置の特長。
p型とn型領域を有するダイオード構造のSiCサンプルの一つには内部に意図的に不純物元素としてバナジウムを入れた厚さ11μmの薄い層を入れ,電子と正孔の消える速度が速く,周辺とは電気特性の異なる部分の形成を試みた。この層があることにより,ダイオードがオンからオフに変わるときの電力消費が少なくなり,ダイオードの性能を高めることが期待できる。ただし,その層で実際に電子と正孔が速く消えているかは,従来確認できていなかった。
開発した装置により,サンプル中の電子と正孔の消える速さ(ライフタイム)の分布を測定したところ,バナジウムを入れていないサンプルでは均一な分布となったが,バナジウムを入れたサンプルではバナジウムが入っている層で小さいライフタイムの値を示し,サンプルの電気特性は設計された通りの分布を有していることが可視化できた。
また,この結果から開発した測定装置の空間分解能はおよそ3μmということがわかった。また,開発した装置では高い空間分解能での測定のみならず,測定条件を調整することで電子と正孔の消える速さの正確な値を見積もることができるという。
研究ではSiCダイオード内部のバナジウム導入の効果を可視化したが,他の要因によるSiCの電気特性の分布も可視化可能だという。したがって,この技術はSiCパワーデバイスの高性能化および製造コスト削減につながるものだとしている。