物質・材料研究機構(NIMS)は,光と電圧の二つの入力値で複数の値を記録できる多値メモリ素子を開発した(ニュースリリース)。
シリコンの微細加工技術だけでは大容量化や省電力化に限界が見えてきたメモリにおいては,従来とは異なる動作原理のメモリ素子の開発が求められている。
今回,研究グループは,複数の二次元層状物質を積層したトランジスタを用いて,光と電圧の二つの入力値で複数の値を記録できる多値メモリ素子の開発に成功した。素子を構成する主要材料がすべて二次元層状物質で形成したことで,異なる材料が接する界面は原子層レベルで平坦で,なおかつ格子欠陥も極めて少ない。
この中ではグラフェンが電荷を蓄積するフローティングゲートとして機能する。具体的には,まず短いパルス電圧で一定量の正の電荷(正孔)をグラフェンに蓄積する。次にパルスレーザー光によりReS2に電子と正孔の対を励起し,そのうち負の電荷(電子)がグラフェンに注入される。
すると先に蓄積された正孔と再結合し,グラフェン内の蓄積電荷量が減少する。この時,照射する光の強度に依存してドレイン電流量はL2,L3,L4と段階的に減少する。これは電子の注入量が光の強度で制御でき,それが蓄積された電荷量を段階的に制御することを示すという。
実際のメモリ素子ではトランジスタの閾値電圧の変化量を読み取る。このように光という手段を利用することができたのは,ReS2が直接遷移型半導体であるため。多くの遷移金属カルコゲナイドは一層だけなら直接遷移型だが,多層膜になると間接遷移型半導体になってしまい,二次元材料の長所と光機能を両立することはできない。
ReS2は層数に係わらず常に直接遷移型半導体であるという特長を有する結果,光の吸収と電荷の励起,トランジスタチャネル内での電荷移動,グラフェンへの定量的な電荷注入といったいくつもの過程を同時達成することが可能になった。
また,ボトムゲート型の素子構造とした結果,チャネルに光を照射することが可能になり,光と電圧を適宜使い分けながら,記録の書込・消去・読込が可能になった。従来のフラシュメモリでは素子構造の制限からこのような動作は不可能だった。
こうして,単なる記録密度の特性の向上だけでなく,間接遷移型半導体のSiが不得手としてきた光機能との融合も可能になってきた。
二次元層状物質の積層構造の中に,蓄積する電荷量を光で調整することに成功したことは,記録密度の向上や素子の省電力化に寄与するだけでなく,光ロジック回路や超高感度光センサーなど様々な展開が期待できるものだとしている。