東北大学と京都大学の研究グループは,イオン性ナフタレンジイミド誘導体を用いて,有機結晶であるにもかかわらず堅牢な結晶格子を有するn型有機半導体材料を作製する事に成功した(ニュースリリース)。
多くの有機電子材料は酸素や水の存在下で性能が劣化する。特に,電子をキャリアとするn型有機半導体材料は,水が電子に対するトラップサイトとして働くため,水の存在する場所で安定なデバイス動作を可能とする有機材料は極めて少ない。
研究グループでは,水の影響を受けにくいn型有機半導体材料を開発し,高い熱的安定性と結晶格子への可逆な水の出し入れに伴う興味深い伝導度スイッチング現象を見出した。
電子を受け取り易い性質を持つn型有機半導体材料に,アニオン性のプロピオネート基を導入したPCNDI2-分子を合成し,そのカリウム(K+)塩の結晶を作製した。これは,塩(NaCl)やKClと同様なイオン性結晶であり,K+カチオン-アニオン間の強いクーロン力により結晶格子が構成されている。
その結晶構造の特徴は,PCNDI2-のπ平面が二次元的に相互作用した電子伝導層とプロピオネートアニオンとK+により強固に結合した静電ネットワーク層が交互に配列している。
静電ネットワーク層には,水分子を可逆に出し入れすることが可能であり,これは298KにおけるH2O分子の吸着等温線から確認できたという。また,結晶の熱的安定性は,その分解温度が500K以上であり,有機材料としては非常に高い安定性を示した。
この水の可逆な出し入れは結晶構造を破壊する事なく起こり,何度でも水を出し入れできる。水の存在は,一般的にはn型半導体材料の電子移動度を大きく低下させるが,今回の結果では,結晶の電子移動度は水の吸着により0.04から0.28cm2V-1s-1へと約1桁程度も大きくなったという。
さらに,K+イオン伝導性を評価したところ,水の吸着に伴い3.4×10-5から4.7×10-7Scm-1とイオン伝導性が2桁も低下する事がわかった。電子とイオンの移動度が,水の出し入れに対して可逆にその大小関係をスイッチングさせる材料である事を見出した。
これにより,有機エレクトロニクスの応用範囲が飛躍的に広がると期待できる。また,水の出し入れに伴う電子-イオン輸送特性のスイッチングは,水に限らずいろいろな分子を可逆に結晶中に出し入れし,その電気的特性が変化する超高感度分子センサなどへの応用が期待できるとしている。