東京大学の研究グループは,物理系が持つ特殊な対称性に着目することにより,時間結晶の新たな生成メカニズムを発見した(ニュースリリース)。
原子が空間内で規則的に配列した氷や金属などの結晶は,空間の並進対称性が自発的に破れた状態として理解される。では,時間の並進対称性が破れた「時間結晶」も同様に存在しうるのかという問題は,活発な研究が行なわれている。
中でも注目されているのが,レーザーなどで周期的に駆動された量子系(フロケ系)で生じる離散時間結晶。離散時間結晶は,離散的な時間並進対称性が破れた状態であり,外部からの駆動の時間周期とは異なる長い周期で自発的に振動する。さまざまな系で離散時間結晶の実現が提案されてきたが,それらの研究の多くは個々の理論模型の詳細に強く依存しており,模型の詳細によらない系統的な時間結晶理論の構築は未だ十分ではなかった。
今回研究グループは,レーザーなどで周期的に駆動されたフロケ系において,「フロケ動的対称性」という新たな対称性を発見し,その対称性によって離散時間結晶および離散時間準結晶が実現することを明らかにした。具体的には,円偏光した振動磁場で駆動されたハバード模型を例にとって,フロケ動的対称性に保護された時間結晶が現れることを証明した。
この研究で提案した時間結晶の新たな生成メカニズムは,物理系が持つ対称性構造だけに依拠しており,固体物質,冷却原子気体,量子光学系などさまざまな物理系への適用ができる。
アインシュタインの相対性理論以来,時間と空間の類似性は物理学において重要なテーマとなっている。時間結晶の研究には,物質中における時間と空間の類似性の探求という側面がある。今回の成果は,この類似性の理解を一歩前進させるものだという。
またこの成果は,量子ダイナミクスの解析への応用も可能。近年,高強度レーザー技術が著しく発展し,レーザー照射による物性制御技術に注目が集まっている。しかし,レーザー中の物質の状態は刻一刻と変化する非平衡状態であり,その物性を理論的に解析またはコンピュータシミュレーションすることは基本的に非常に難しい。
今回発見された「フロケ動的対称性」は量子状態のダイナミクスを制約するため,シミュレーションによる膨大な計算をせずに,ダイナミクスの重要な側面を把握することに役立つという。
研究グループは,今回の成果を足掛かりとして,解析が非常に困難である周期駆動系の問題を,対称性の観点から統一的に解明する研究を今後一層進展させるとしている。