名古屋大学の研究グループは,キラル銅(II)錯体触媒の存在下,市販のセレクトフルオルをフッ素化剤に用いて,光学活性α-フルオロアシルピラゾールを合成する方法を開発した(ニュースリリース)。
医薬品のうちフッ素原子を含むものは2〜3割を占め,農薬品においては実に3割を超えるなど,フッ素は医農薬品の開発に重要な役割を果たしている。例えば,代表的な含フッ素医薬品として,高脂血症用薬ロスバスタチンや糖尿病治療薬シタグリプチンがある。
これらは芳香族炭素にフッ素原子を導入した例であり,大多数の含フッ素医薬品がこれらの例のようにキラリティーの生じない炭素にフッ素原子を導入している。一方,抗喘息薬プロピオン酸フルチカゾンのようにフッ素原子を導入することによってその炭素にキラリティーが生じる例もあるが,開発例は非常に少ない。一方,抗菌活性のあるルクレオジンのように天然物のなかにもフッ素原子の付いた炭素にキラリティーのあるものもある。
今回用いた触媒は以前に研究グループが環化付加反応の不斉触媒として開発したキラル銅(II)錯体で,今回の不斉α-フッ素化反応6にも有効だった。この触媒はα-アミノ酸由来のキラル配位子と銅(II)間に生じる π-カチオン相互作用を特徴とし,この作用を利用して高い不斉誘導を発現する。
カルボニル化合物の不斉α-フッ素化反応については幾つか報告例はあるが,今回の合成法は基質適用範囲が圧倒的に広く,安価な銅を利用できる点で優れている。また,アシルピラゾールを基質に用いるため,生じる光学活性α-フルオロアシルピラゾールは光学活性含フッ素エステル,ケトン,アミド,アルコールへと変換できる点も大きな利点。
また,この合成法は高い官能基選択性を示し,複数の官能基を有する生物活性物質に対しても位置選択的にフッ素を導入できるため,合成後期の不斉フッ素化反応としても適用できるという。
この合成法は,多くの場合,数時間で反応が完結する。また,高い官能基選択性を示し,複雑な構造を有する官能基を複数有するような基質に対しても位置選択的にフッ素を導入することができ,合成後期のエナンチオ選択的フッ素化反応(late-stage fluorination)の手段としても有用。
研究グループは,この合成法を用いて,これまで困難であった光学活性含フッ素医薬品の開発が期待されるとしている。