理化学研究所(理研)の研究グループは,量子力学と一般相対性理論を用いて,蒸発するブラックホールの内部を理論的に記述した(ニュースリリース)。
近年の観測により,ブラックホールの周辺のことについては徐々に分かってきたが,その内部については,極めて強い重力によって信号が外にほとんど出てこられないため,何も分かっていない。
また,ブラックホールは形成される過程において,時間変化する曲がった時空の効果と真空の量子的効果により,ブラックホール近くの真空から光の粒子(光子)が生成され放出される「ホーキング輻射」によって最終的に蒸発することが理論的に示されており,内部にあった物質の持つ情報が蒸発後にどうなってしまうのかは,現代物理学における大きな未解決問題の一つとなっている。
重力を時空の曲がりとして記述する一般相対性理論に基づくブラックホールは,重力が非常に強いため時空が極端に曲がり,光さえも脱出できない。光が遠くに逃げられるかどうかの時空の境界である,ブラックホールとその外側の境界を「イベントホライズン」といい,その半径はブラックホールのもととなった物質の質量(エネルギー)で決まり,「シュワルツシルト半径」と呼ばれる。
今回,研究グループは,ブラックホールの形成段階から蒸発の効果を直接的に取り入れた理論的解析を行ない,「物質の量子力学の効果を含むアインシュタイン方程式」の新しい解を得た。その結果,ブラックホールはイベントホライズンを持たない高密度な物体であることがわかった。
これは,ブラックホールはあらゆる物体が強い重力の下で取り得る極限的状態であることを示す。この解はブラックホール内部の物質と時空を直接記述することができるため,内部に入った物質の情報を追跡できるという。
研究グループは,今後の研究により,蒸発後にその情報がどうなるのかを理解できる可能性があるとする。この研究成果は,ブラックホールの正体に迫るものであり,遠い未来,情報を蓄えるデバイスとしてブラックホールを活用する「ブラックホール工学」の基礎理論になると期待できるとしている。