慶應義塾大学とスウェーデンカロリンスカ研究所の研究グループは,3次元ライトシート顕微鏡と組織透明化法と組み合わせ,立体的な腫瘍空間にひろがるタンパク/RNA発現の空間分布を1細胞レベルで解析可能にする,新規癌イメージングDIIFCO(Diagnosing In situ and Immuno-Fluorescence- labelled Cleared Onco-samples)法を開発した(ニュースリリース)。
従来の分子イメージング技術は,撮影範囲・解像度が不十分,組織断面の分子の分布を描画する2次元イメージングである,等の限界があり,腫瘍空間における分子の分布を立体的に,かつ高解像度で可視化し,忠実に癌微小環境を再現する新たな3次元イメージング法が求められていた。
また,癌微小環境の分子機構をより正確に理解するために,in situハイブリダイゼーション法(in situ法)によるRNAの局在解析も重要になっている。タンパクまで翻訳される遺伝子は,全遺伝子の1.5%に満たず,多くの発現遺伝子は細胞内にRNAとして存在し,癌微小環境の制御を行なう。
しかし,免疫組織染色とin situ法の共存は難しく,立体的な組織構造の維持が不可欠な3次元イメージング法を利用した1細胞レベルでのRNAとタンパク質の同時解析はこれまでなかった。
今回,研究グループは,ライトシート顕微鏡に独自の免疫染色,in situ法並びに組織透明化法を組み合わせ,標的分子のタンパクおよびRNAを発現する細胞を同時に検出し,癌組織の立体的な空間上に描画する新規癌イメージングDIIFCO法を考案した。この方法で透明化される腫瘍塊では,免疫組織染色とin situ法を同時に施行することが可能。
癌微小環境で免疫染色される腫瘍血管と標的分子のRNAを持つ数百~数千万の癌細胞との位置関係が1細胞毎に可視化され,腫瘍空間で癌幹細胞が自らを育む環境(癌幹細胞ニッチ)も世界で初めて明らかになった。この手法では,ホルマリン・パラフィン固定された保存サンプルを利用することができ,病理診断後の組織やバイオバンクに存在する保存組織でも,1細胞レベルの高解像度なタンパク/RNAの同時発現解析を行なえるという。
保存サンプルを活用できるDIIFCO法は,「ライトシート顕微鏡と組織透明化法の融合」を迅速化し,臨床現場への橋渡しを可能にする新規癌イメージングとして,将来の臨床応用が期待されるとしている。