京都工芸繊維大学,産業技術総合研究所,国士舘大学,シンガポール国立大学,シンガポール科学技術研究庁の研究グループは,膜状態では圧電効果を示さない汎用樹脂が,電界紡糸法によってマイクロファイバー化するだけで,圧電材料の逆圧電特性に似た電気機械特性(逆圧電的特性)を示すことを世界に先駆けて明らかにした(ニュースリリース)。
IoTの発展に伴い,機能性繊維材料における圧電効果は,生体の動作や心拍といった動きを捉えるセンサーとして,また振動や音声を出力するアクチュエーターとしての利用が可能なことから広く求められている。
軽量で機械的に柔軟な圧電樹脂は主に膜状で使用されてきたが,近年はこれらを繊維化したナノ/マイクロ圧電ファイバーも報告されている。しかし,これらの圧電樹脂は,圧電性を向上させるために後処理が必要であり製造工程が煩雑だった。また,後処理を行なっても,セラミック系材料と比して圧電特性が低いという課題があった。
これまでに研究グループは,ポリスチレンが,電界紡糸法によってマイクロファイバー化するだけで,圧電材料の逆圧電特性に似た電気機械特性(逆圧電的特性)を示すことを世界に先駆けて明らかにした。
加えて,得られた逆圧電的特性から見かけの圧電d定数を算出したところ,準静的な電圧印加の場合では30,000pm/Vを超える値が,1kHzの高周波の電圧を印加した場合でも約13,000pm/Vという従来の圧電材料の値[例:圧電樹脂膜≤53pm/V,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)≤700pm/V]を大きく上回る値が得られることを明らかにした。
さらに,この電界紡糸ポリスチレンマイクロファイバー膜で得られた特異な逆圧電的特性を説明する数理モデルも初めて提案した。
圧電効果を示す樹脂製ナノ/マイクロファイバーの研究領域では,膜状態でも圧電効果を示すいわゆる圧電樹脂(ポリフッ化ビニリデンなど)を材料として用いた研究が数多く報告されているような状況だった。この研究では,汎用樹脂であっても電界紡糸法によるマイクロファイバー化により,高度の逆圧電的特性を示すことを発見した。
この成果は,材料選択の範囲を広げるとともに,安価な汎用樹脂を用いることで極軽量,柔軟,優れた特性の圧力センサーやアクチュエーターが安価かつ大面積で製造できる可能性を示すものだという。さらに,ポーリングなどの後処理を要しないため,製造工程の省工程化や省エネルギー化が期待されるとしている。