富士キメラ総研は,多岐にわたって使用され,素材やサイズ,形状によって多様な展開が可能な微粒子材料である微粉体の世界市場を調査し,その結果を「2020年 微粉体市場の現状と将来展望」にまとめた(ニュースリリース)。
この調査では微粉体を素材別に,汎用無機10品目,金属6品目,金属酸化物5品目,セラミックス7品目,ポリマー9品目,その他ナノ材料2品目の市場を調査・分析した。これに加え3Dプリンター用パウダーなど用途別の注目市場もまとめた。
これによると,3Dプリンター用パウダーは,3Dプリンターの普及により,3Dプリンターで部品などを成形する際に使用する金属パウダー,樹脂パウダーの市場が急拡大している。
金属パウダーは,海外を中心に航空宇宙や医療分野で採用が進んでいる。部品を一体化できることから部品点数の大幅な減少や軽量化,高強度化が可能となり,航空宇宙分野では航空機エンジンパーツが量産されている。
医療分野ではインプラントで量産実績があり,人工骨でも採用される。また,自動車分野での採用も進みつつあり,独BMWや独Volkswagenが採用を開始している。なお,日本では試作や金型での採用が主であり,量産実績は少ないという。
樹脂パウダーは,SLS(粉末積層造形法)で使用されるパウダーを対象とした。市場の大半をPAが占めており,試作品向けに採用されている。PPS(ポリフェニレンサルファイド)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などスーパーエンプラ系のパウダーが投入されており,航空宇宙や自動車,医療分野で今後実用化が進むと期待している。
注目市場は以下の通り。
・カーボンナノチューブ
1nm~200nmの繊維状・筒状粒子で,強度や高電流密度,高熱伝導,導電性に優れる。
リチウムイオン二次電池の正極活物質であるリン酸鉄リチウムの導電助剤として使用されており,中国でのEVやEVトラック・バスの需要増加により拡大してきた。2019年は中国でのEV購入補助金の大幅な減額による電池需要の鈍化に伴い,カーボンナノチューブの伸びも緩やかとなった。しかし,EVの世界的な普及や負極活物質の導電助剤での採用増加により市場の拡大は続き,2023年には2019年比49.4%増の605億円を予測している。
・窒化ホウ素
0.5μm~30μmの鱗片状・球状粒子で,高温潤滑性や電気絶縁性,化学的安定性,熱伝導性に優れる六方晶窒化ホウ素を対象とした。
半導体製造装置用部品やアルミ加工用鋳造型での使用が多く,2019年は半導体需要の停滞により市場は縮小した。EVや5G通信の普及によりパワー半導体向け放熱フィラーで採用が伸び,化粧品添加剤ではマイクロプラスチック規制により代替品としての採用が期待されることから,2023年の市場は2019年比28.2%増の191億円を予測している。
・超微粒子酸化亜鉛
10nm~100nmの球状粒子で紫外線遮蔽性や透明性に優れる。
紫外線防止剤としてサンスクリーンやファンデーションなど化粧品で主に使用されている。サンスクリーンの需要増加,ファンデーションや化粧下地,乳液,口紅など化粧品での採用増加により,市場は堅調に伸びている。
欧州でガイドラインの変更により超微粒子酸化亜鉛の化粧品への含有が認められたことで,欧州における需要増加を予想している。また,米国ハワイ州で2021年から一部の有機系紫外線吸収剤を含有するサンスクリーンの販売が禁止されることから,超微粒子酸化亜鉛への代替が進むとみている。
微粉体の世界市場は以下の通り。
微粉体の世界市場は,2019年に5兆4,140億円となった。2023年には2019年比15.2%増の6兆2,355億円を予測している。
カテゴリー別で最も市場規模が大きいのが汎用無機となる。活性炭が中国や東南アジアなど新興国における水処理・環境浄化ニーズの高まりにより伸びており,工業用吸着剤や自動車排ガス処理用触媒として使用されるゼオライトも好調となる。
金属や金属酸化物,セラミックスは,半導体需要の停滞により2019年の市場は縮小した。今後は半導体需要の回復が予想されることや,金属は3Dプリンターの成形材料として使用されるチタン粉やアルミニウム粉,金属酸化物は高純度酸化チタンやサンスクリーンなど化粧品で採用される超微粒子酸化チタンや超微粒子酸化亜鉛,セラミックスではチタン酸バリウムが伸びることで市場の拡大を予想している。
汎用無機に次ぐ市場規模であるポリマーは,エレクトロニクスや自動車での需要増加により拡大している。また,3Dプリンター用の成形材料であるポリアミドの伸びが予想される。一方,海洋汚染問題を契機に規制が進んだことで,化粧品向けマイクロビーズの需要が減少しているという。
その他ナノ材料は,カーボンナノチューブが二次電池材料として急成長している。今後,セルロースナノファイバーが量産体制構築や新規用途開拓,コスト低減などにより伸びが期待できるとしている。