東京大学の研究グループは,極薄の酸化物半導体IGZOを用いたトランジスタと抵抗変化型不揮発性メモリを三次元集積したデバイスの開発に成功した(ニュースリリース)。
通常のメモリ配列は二次元構造であり,ネットワークのモデルが大規模になるにつれて配線長が長くなり,計算速度や消費電力が問題となる。また,同時にアクセスできるメモリ量にも制限があるため,並列計算の効率が上がらない。
この研究では,インメモリコンピューティングのハードウェア実装における二次元メモリ配列での配線の問題を解決し,かつ超並列計算を可能にするため,メモリ配列を三次元積層した三次元ニューラルネットワークの実現に向けて,通常の集積回路の配線層に400℃以下のプロセス温度で極薄の酸化物半導体IGZOをチャネルとするトランジスタ(IGZOトランジスタ)と抵抗変化型不揮発性メモリ(RRAM)を形成した三次元集積デバイスを提案した。
この三次元集積デバイスの各層は,RRAMとIGZOトランジスタによるメモリセルからなる配列で構成される。研究では三層を積層したデバイスを試作した。IGZOトランジスタは400℃以下のプロセスで形成されるが,移動度は 10cm2/Vsという高い値を有する。
各層のIGZOトランジスタは十分に大きな電流を駆動し,RRAMに適切に書き込むことができる。また,各層のメモリセル特性を比較したところ,不揮発性メモリ特性および信頼性はほぼ同じで,積層プロセスによる劣化は見られなかった。この結果はさらなる積層化が可能でありネットワークモデルの拡張に対応できることを示唆しているという。
このデバイスのIGZOトランジスタとRRAMによるメモリセルのペアを用いたインメモリコンピューティングとして,ニューラルネットワークの基本計算であるXNOR 演算を実証した。
具体的にはRRAMにニューラルネットワークの重みを学習させ,IGZOのゲートにつながるワード線に入力データを印加し,その組み合わせによってプリチャージしておいたビット線の電圧が放電され,XNOR 演算結果をビット線の出力電圧として得ることができる。この方式では定常電流を発生しないため,従来の方式に比べて10分の1以下の低消費電力な演算が可能となるという。
この成果はディープラーニングの計算を高いエネルギー効率で計算することを可能にし,クラウドだけでなくエッジデバイスでも高度な人工知能計算を行なうことで,ビッグデータに基づく社会サービスの飛躍的な向上が期待されるとしている。