京大ら,光の軌道角運動量を擬似プラズモンに転写

京都大学,カナダÉcole de technologie supérieure,北海道大学の研究グループは,光の軌道角運動量を擬似プラズモン(電子の集団運動)に転写することに成功した(ニュースリリース)。

光が偏光回転に由来するスピン角運動量を持つことは100年以上前から知られていた。それに加えて,光が軌道角運動量を持つことは比較的最近の1992年に解った。光の軌道角運動量は,電磁場振動の位相の回転に由来しており,軌道角運動量を持つ光を光渦と呼ぶ。スピン角運動量が左右の円偏光に対応した±ħの2値だけしか取れないのに対して,軌道角運動量はlħ(lは整数)と理論的には無限の値をとることができる。そのため,新しい光の自由度として大きな注目を浴びており,世界中で様々な研究が行なわれている。

その中で,光渦と物質の相互作用が物理学的に興味が持たれている。角運動量の存在は光と物質の相互作用の仕方を大きく左右し,例えば円偏光を用いると,スピン角運動量を物質に与えることによってマクロな物体を自転運動させることができる。

それに対して,光渦では軌道角運動量を物質に与えることで公転運動を誘起することが知られている。また,より小さな電子との相互作用においても角運動量のやり取りは発生し,電子の量子力学的状態を変化させることができる。

2016年には単一原子を用いた研究により,電子に光渦の軌道角運動量が転写されることが実験的に証明された。次の関心は固体物質中の電子との軌道角運動量のやり取りに関する法則だが,未解明な点が多いのが現状だった。

研究グループは,金属中の電子の集団運動であるプラズモンに着目。金属円盤のプラズモンへの軌道角運動量転写は理論的には予測されていたが,その様子を可視化することは実験的には困難だった。そこで今回,テラヘルツ領域の近接場イメージング技術を用いることでこの問題を解決した。

また,通常は近赤外域に存在するプラズモンをテラヘルツ周波数領域に移動させるために,金属円盤に波長以下の溝をつけたメタマテリアル構造を採用し,擬似プラズモンを利用した。

軌道角運動量は光の新しい自由度として光通信や量子情報分野での利用が検討されている。光の軌道角運動量を効率よく金属中の電子に転写できることが示されたことで,固体デバイス応用の新しい可能性が広がるという。

また,擬似プラズモンの周波数は金属構造の大きさで制御することができるため,様々な周波数帯の光に対応可能となる。今回の成果により,軌道角運動量を利用した新しい光科学技術の発展が期待されるとしている。

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