金沢大ら,分極した臭素分子を分光学的に観測

金沢大学,立命館大学,高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の研究グループは,原子1個分の凹みを持つ半球状バナジウム酸化物クラスターに分極活性化された臭素分子を挿入することで,アルカンの臭素化の反応性を制御することに成功した(ニュースリリース)。

天然ガスや原油などに多く含まれるアルカンから有用な化成品原料への変換が容易になれば,化学産業・工業の原料として資源の効率的な利用が可能となる。臭素化によって選択性を高めることが鍵となるが,アルカンは反応性に乏しいことから,反応性の乏しいアルカンを部分的に官能基化するには,適切な反応場を開発する必要がある。

ハロゲン原子1個分の凹みを持つ半球状のバナジウム酸化物クラスターは,凹みの縁が相対的に負に,凹みの内部が相対的に正に帯電する特異的な電荷分布を示す。

この研究では,臭素分子が半球状バナジウム酸化物クラスターの凹みの内部に安定化されることを見いだした。また,赤外分光スペクトルでは,電荷の偏りがない臭素分子は通常は観測されないが,半球状バナジウム酸化物に挿入することで,185毎cm(cm−1)に臭素分子の分極に起因するピークを観測した。これは,分極した臭素分子を分光学的に観測した世界初の例となる。

さらに,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光実験施設フォトンファクトリーで測定された臭素の広域X線吸収微細構造スペクトルを解析することにより,臭素原子間の距離は,0.233nmであり,気体の臭素分子の原子間距離0.228nmより長くなっていることを明らかにした。

バナジウム酸化物クラスターの凹みに分極活性化された臭素分子を活用することで,ペンタンの臭素化反応の生成物では,2-ブロモペンタンと 3-ブロモペンタンの比が36:64となり,臭素分子のみで反応したときの80:20とは異なる選択性を示した。

また,生成物の 2,3-ジブロモペンタンでは,ジアステレオ異性体のうち,トレオ体の選択性が,臭素分子のみで反応したときと比べ高くなった。さらに,より炭素鎖の短いブタンやプロパンといったアルカンでも臭素化が進行した。以上のように,アルカンの臭素化反応に対して,ラジカル機構とは異なる特異的な選択性を示すことが明らかとなった。

これらの知見は将来,小分子の分極化材料や高機能性触媒の設計に活用されることが期待されるとしている。

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