東北大学,科学技術振興機構(JST)の研究グループは,石英の超細長線(直径10-6m,長さ5cm)をミリグラム程度の鏡にレーザー溶接することで,エネルギー散逸が世界で最も小さな振動子(振り子)を開発することに成功した(ニュースリリース)。
巨視的な物体が生成する重力を検証できれば,時空の量子的な性質の解明につながると期待されている。しかし,量子揺らぎは一般的に物体が巨視化すればするほど観測が困難になり,また重力はあまりにも小さいため,その量子性を検証することは困難とされている。
巨視的振動子の量子制御が困難な原因は主に二つある。一つ目は,物体が巨視化すると,環境との相互作用(例えば空気との衝突)が無視できなくなること。環境との相互作用によって物体はブラウン運動をするため,量子揺らぎは(重力源として使用できるほどの)巨視系では観測されたことがない。
二つ目は,(位置の)量子揺らぎは,振動子の質量を大きくすると小さくなること。重力の微小さを補うために重力源を大きくすれば,量子揺らぎは反対に小さくなる。
これらを考慮に入れ,研究グループは,量子制御が可能な程度小さく(従来限界は10-8グラム程度),かつ重力源として使える程度に大きな物体(従来限界は100グラム)として,中間的なミリグラム(10-3グラム)程度の振動子(振り子)に注目している。しかし,この領域で十分に微小なエネルギー散逸を持つ振動子は存在していなかった。
量子揺らぎを制御するためには,振動子を環境から孤立させ,エネルギー散逸を低減することで,ブラウン運動の影響を抑える必要がある。孤立した振動子は一度揺らされると,長時間揺れ続ける。
研究グループは,石英の超細長線(直径10-6m,長さ5cm)をミリグラム程度の鏡にレーザー溶接することで,エネルギー散逸が世界で最も小さな振動子を開発することに成功した。
低散逸化により,従来の量子制御実験の対象より5桁も重い,量子制御が可能な巨視的振動子を実現した。他方,研究グループは 2019年の研究成果によって,ミリグラム程度の物体が生じる微小な重力の観測が可能な振り子型センサーの開発にも成功している。
そのため,「量子制御の対象としての振り子」と「力センサーとしての振り子」を同時に活用することで,量子制御された振り子が生じる重力を観測できる可能性がある。
このような重力の量子性の検証の他にも,量子振り子を用いることで,ダークマターの観測,重力デコヒーレンスを観測するなど,新たな応用が切り開けるとしている。