理研ら,THz光が生体内部へ到達する可能性を発見

著者: higa

理化学研究所(理研),東北大学,量子科学技術研究開発機構,大阪大学,京都大学の研究グループは,水溶液中で培養した細胞にテラヘルツ(THz)パルス光を照射した際,その光エネルギーが水溶液中を「衝撃波」として伝搬し,細胞内のタンパク質重合体を断片化することを明らかにした(ニュースリリース)。

THz光は水に強く吸収される性質があるため,生体組織のような水を含む物質では10μm程度しか透過できない。そのため,THz光の生体深部の組織への影響については研究が進んでいなかった。

研究グループは,細胞内の高分子構造や機能に対してTHz光が与える影響を明らかにするため,多様な生命現象に関わるタンパク質のアクチンに着目した。アクチンは重合することで繊維構造を形成する。

この繊維形成能は細胞から単離・精製した後も維持することから,精製したアクチンを用いることで,THz光照射によるタンパク質への直接的な影響を評価できる。また,精製アクチンで生じた影響は細胞内でも良く再現されるため,タンパク質から細胞へと段階的な調査を効率よく進めることができる。

組織から精製したアクチンの水溶液に塩を添加すると,重合が開始し繊維が形成される。その過程で,自由電子レーザーを光源としたTHzパルス光(周波数4THz,80μJ/cm2)を照射し,アクチン繊維の形成に及ぼす影響を調査した。

アクチン繊維を蛍光プローブで可視化し,その構造と本数を比較したところ,THzパルス光を照射すると,繊維の形成率が非照射と比較して約40%減少することが分かった。

次に,生きた細胞の中にあるアクチン繊維を蛍光プローブにより可視化し,THzパルス光の照射が及ぼす影響を観察した。その結果,THzパルス光の照射により,細胞内に存在するアクチン繊維の断片化が起きることが分かった。細胞内のアクチン繊維の量は,蛍光プローブの輝度と相関関係がある。

そこで蛍光輝度を測定し,繊維量を定量的に解析した。その結果,THzパルス光の照射面から約2mm離れた水中であっても,細胞内のアクチン繊維が切断され,蛍光輝度が減少することが分かった。人体において2mmはヒトの皮膚に相当する厚さであり,この結果はTHzパルス光の影響が皮膚組織の深部まで到達する可能性を示している。

この成果は,THz光の発振方式に加え,組織深部における安全性についても皮膚表層と同様に考慮する必要があることを示すとともに,組織深部の生体高分子を標的とした効率的な細胞機能操作技術の開発につながるとしている。

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