物質・材料研究機構(NIMS),産業技術総合研究所の研究グループは,産業上実用性の高いシリコン基板上に,優れた磁気抵抗特性を示す単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を作製することに成功した(ニュースリリース)。
従来の研究で,ハーフメタルホイスラー合金を用いた高品位の全単結晶構造の巨大磁気抵抗素子が作製され,現行のHDDの5倍近くもの記録密度を持つ高記録密度HDD用再生ヘッドに必要とされる極めて大きな磁気抵抗比を示すことが報告されている。
しかし,その作製には,結晶格子の整合性がよく耐熱性の高い単結晶酸化マグネシウム(MgO)基板を用いる必要があり,工業生産されるMgO基板のサイズが小さくコストが高いことが実用化を阻んでいた。
それに加え,HDD用の再生ヘッドは,多結晶構造を持つ磁気シールド電極膜上に作製しなければならないが,単結晶素子を格子方向がバラバラな多結晶上に直接成長させることは不可能となる。
また磁気シールドは熱に弱く,熱処理温度を300℃以下にする必要があるため,ホイスラー合金の規則化に必要な高温熱処理が行なえないなど,単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子の実用化にはさまざまな障壁があった。
研究グループは,安価で実用性の高いシリコン基板上にNiAl/CoFe下地層を用いることで,極めて高い耐熱性と平坦性が得られることを発見し,MgO基板上に成長させた素子と同等の性能を示す単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子を,シリコン基板上に作製することに成功した。
さらに,近年開発が進む3次元積層技術を用いることで,別の基板上に成長させた多結晶電極膜上に,作製した単結晶ホイスラー巨大磁気抵抗素子膜をウエハー接合させることに成功した。
ウエハー接合の条件を最適化することで,極めて平坦かつ欠陥のない多結晶/単結晶接合界面が実現され,接合後も接合前と同等の高い磁気抵抗性能が得られることを実証した。
この手法を用いれば,多結晶電極膜上に単結晶磁気抵抗素子を直接成長させる必要がなく,高温の熱処理によって生じる問題も完全に解決される。
この成果によって示された手法は,単結晶ホイスラー合金巨大磁気抵抗素子のみならず,同様に高い性能を示すことで知られる単結晶構造のトンネル磁気抵抗素子などを,耐熱性の低い集積回路上に積層することなどに汎用的に用いることができる。
さらに,高い性能を誇る単結晶スピントロニクス素子に実用への道を拓き,HDDや磁気ランダムアクセスメモリーの大容量化などに貢献するとしている。