東京工業大学,京都大学,仏ナント大学,香港科学技術大学の研究グループは,現象論的に定義されてきた凝集誘起発光(AIE)について1分子で働く理想的な分子系を発見した。また光物理過程の実験・理論的解析によりAIE現象の本質を明らかにし,新分子探索法や機能開発の指針を提案した(ニュースリリース)。
溶液中で消光し,固体状態で強く発光する凝集誘起発光(AIE)色素は,生体分子分析や固体発光材料への多彩な応用への期待から,大きな注目を集めている。
しかし,AIEは現象につけられた名前であり,様々な発光メカニズムや分子集合体の効果が混在しているため,その原理を統一的に理解して新しい分子の設計や機能の開発を行なう基礎研究が不十分だった。
研究グループは2015年に偶然発見したAIE色素および類似の構造である大きく捻じれたジアルキルアミノ基を持つ芳香族炭化水素類が1分子でAIE挙動を示す理想的な分子群であることを発見した(代表的なAIE色素は構造もメカニズムも複雑)。そして,実験と理論の両面からこれらの色素の発光・消光メカニズムの解明に挑戦した。
AIE現象の特徴である溶液中の消光は光励起後に極めて短いスケール内で起こる内部転換(内部変換)領域で起こる。したがって,実験的手法で解析することが困難なため,発光・消光メカニズムを実証することが難しいとされてきた。
研究グループは,量子化学をベースに,ポテンシャル曲面,すなわち化学反応の経路を算出し,消光が起こる際の分子の構造変化を可視化することに成功した。
これらの議論から,AIE現象の本質は溶液中での無輻射失活経路にあることを明らかにした。このことは,分子集合体の性質により蛍光強度が増加する系でも成り立つ。また,これらの知見をもとに,溶液中で励起された分子が,大きな構造変化を伴う失活経路により消光する分子系が新しい AIE 色素の候補となることを指摘した。
研究グループでは理論計算を駆使して,AIE色素に限らず,様々な発光材料の設計や光物理過程の予測・解析を行なっている。計算機の性能の大幅な向上により,研究グループの期待通り,化学反応や発光現象をまるで映画を見るように計算により可視化できるようになった。
実際の化学反応はもう少し複雑だが,反応の進行や発光の予測に十分な情報が得られるようになっている。実験的な解析が難しく,未開だった分子系の光機能の開発が期待されるとしている。