大阪大学の研究グループは,ナノセルロースを配列させながら自在な構造に集積するための液相3Dパターニング技術を開発した(ニュースリリース)。
研究グループでは,ナノセルロースに伝熱異方性や光学異方性を見出し,それらの特性を制御した高機能フィルム材料の開発を推進している。生物体内で合成されるナノセルロースは,セルロース分子鎖が伸び切った特殊な結晶構造を取るナノ繊維状材料であり,形状と物性の双方で異方性が大きい材料となる。
このナノセルロースを設計通りに配列させ,熱や光の伝わり方を高度にコントロールすることで,次世代エレクトロニクスの高性能化・省エネ化に向けた熱・光マネジメント部材への展開が期待されている。
今回,研究グループは,ナノセルロースを一方向のみならず複数の方向に様々に集積した多軸配向集積フィルムを構築するための液相3Dパターニング技術を開発した。そのコンセプトは,ナノセルロース懸濁液をシリンジ針から凝固液中に定速吐出し,流体力学的に繊維を配列させながらその吐出系をプログラムしたパターンに基づき移動させることで3次元的にパターニングする。
凝固液中でナノセルロース懸濁液をゲル化させ,構造を壊さず凝固液から引き上げて乾燥させることで,プログラム通りの配向構造を持つナノセルロース100%のフィルムが成膜できることを見出した。
この手法を用いることで,市松模様に配向軸が異なる多軸配向構造をプログラムし,1枚のフィルムの面内で配向軸が異なる多軸配向集積フィルムの作製に世界で初めて成功した。
このフィルムには,海産動物であるホヤの外套膜から抽出したナノセルロースを用いている。直交する偏光板にフィルムを挟んで光透過性を観察したところ,明確な明暗パターンが見られ,複数の光学異方性軸があることを確認した。より詳細には,市松模様の各ドメインにおいてほぼ同等の光学位相差が観測され,分子鎖方位に対応する遅相軸がプログラム通りの方位に配置されたことを確認した。
また,このフィルムに一方向の熱流を印加して各ドメインの温度分布を解析したところ,熱流と同じパターニング方向のドメインでは,隣接する直交方向のドメインよりも高温となり,熱が遠くまで伝搬したことを確認した。すなわち,この液相3Dパターニング技術によってフィルムの光学ならびに伝熱特性の異方性をプログラム通りに設計できることを実証した。
この技術は,ナノセルロースを自在に配向させ,複屈折を部位ごとに制御した次世代の光学機能性部材や,熱拡散フィルム部材への展開が期待されるとしている。