理化学研究所(理研),武田薬品工業,順天堂大学の研究グループは,損傷したミトコンドリアを細胞が選択的に除去する現象「マイトファジー」を可視化する蛍光センサーを開発し,パーキンソン病の病理診断および治療薬開発に応用した(ニュースリリース)。
ミトコンドリアはエネルギーを作り出す細胞小器官だが,ストレスを受けると有毒な活性酸素を産生して自身を傷つけることがある。損傷したミトコンドリアは,さらに活性酸素を放出し細胞を死に至らせるので,速やかに隔離・分解される必要がある。これまでの研究により,損傷ミトコンドリアには目印が付けられて識別され,オートファジーによって分解されることが分かっている。
損傷ミトコンドリアに対して選択的に起こるオートファジーは,「マイトファジー」と呼ばれている。研究グループは2011年に,Keimaをミトコンドリア内部に設置することで,マイトファジーを簡便に検出・可視化する蛍光センサーを開発した。
ホルマリンなどで標本を化学的に固定すると,リソソーム内も中性となり,オートファジーやマイトファジーのシグナルが消失してしまうため,リソソーム内外のpH差を検出するKeimaをもとに開発したセンサーは,生きた細胞標本においてのみ機能する。
ところが,実験動物を扱う実験では固定組織標本を観察することが多く,また,培養細胞を扱うドラッグスクリーニング実験では,膨大な量の固定細胞標本を観察することが一般的。このような理由から,固定標本でも機能する蛍光センサーが求められていた。
今回,研究グループは,酸やタンパク質分解酵素に耐性を持つ蛍光タンパク質「TOLLES」を作製し,TOLLESを材料にしてマイトファジーを定量的に可視化する蛍光センサー「mito-SRAI」を開発した。
このセンサーを用いて,パーキンソン病モデルマウス中脳のドーパミン神経において,マイトファジー不全と細胞死が相関することを示した。さらに,76,000種の化合物の中からパーキンソン病治療薬の候補を見いだすことに成功した。
この研究成果は,パーキンソン病を含む神経変性疾患,さらにミトコンドリア機能障害が関与するあらゆる疾患の医学的研究に役立つとしている。