横浜市立大学,京都大学,シンガポール国立大学,国立台湾大学の研究グループは,強度近視を対象とした遺伝子解析研究を行ない,近視の発症・進行に関与する新たな疾患感受性遺伝子領域を同定した(ニュースリリース)。
近視は遺伝要因(疾患感受性遺伝子)と環境要因とが複合的に関与して発症・進行する多因子疾患と考えられており,これまでに遺伝子解析研究が多数実施されているものの,未同定の疾患感受性遺伝子が依然として多く存在することが示唆されている。近視の程度が強くなるほど,その発症・進行に対する遺伝要因の影響度が大きくなることが報告されているため,この研究では,強度近視を対象に遺伝子解析を行なった。
まず日本人集団(強度近視患者1,668例,健常者1,601例)を対象にゲノム全域を網羅するSNP解析(ゲノムワイド関連解析:GWAS)を実施したのち,新たな日本人・シンガポール人・台湾人集団(強度近視患者881例,健常者9,946例)を用いて追認試験・メタ解析を行なった結果,強度近視とゲノムワイドレベルの相関(P<5×10-8)を示す9個の疾患感受性遺伝子領域を同定した。
同定した9個の疾患感受性遺伝子領域のうち,3個は既知の有力な近視感受性遺伝子領域であり,6個が今回のGWAS研究で新たに同定された疾患感受性遺伝子領域となる。
この9個の疾患感受性遺伝子領域を対象とした機能解析の結果,これら疾患感受性遺伝子領域内に位置する複数の遺伝子の発現量の変動が近視の発症・進行に有意な影響を与えることが分かった。
また,遺伝子オントロジーエンリッチメント解析により,「シナプスシグナル伝達」,「神経発達」,「Ras/Rhoシグナル伝達」に関連する神経系の機能の亢進や抑制が近視の発症,進行および病態に深く関与していることも分かったという。
この研究は,眼軸長の異常な延長を示す強度近視を対象としたGWAS研究であり,この研究で網羅的に同定された疾患感受性遺伝子は近視の発症・進行に影響を与える重要な遺伝要因であることが推察されるとする。
この成果は,近視の発症リスクおよび進行度を遺伝子判定から予測するための基礎情報になるとしている。