山形大学と早稲田大学は共同研究により,有機薄膜太陽電池のデバイス内部の光の流れを解析するための世界初のシミュレーション手法を開発した。また,この手法を応用することで,ナノオーダーの微小な円錐を並べたモスアイ構造を設計し,有機薄膜太陽電池の反射防止に使用した結果,従来比8.3%の大幅な発電効率の向上を実現した(ニュースリリース)。
太陽光発電のさらなる普及を目指す上で,太陽電池のコストが高いことが大きな課題となっており,材料・製造コストの低減が可能な有機薄膜太陽電池の研究開発が盛んに行なわれている。有機薄膜太陽電池から電流を取り出すには,材料の電気的な特性上,光を電気に変換する発電層の厚さを約100nmに非常に薄くする必要がある。
一方,光はこのような薄い発電層を容易に透過してしまうため,薄い発電層に光を吸収させるための高度な光制御技術が必要となっている。しかし,有機薄膜太陽電池のように,光がガラス基板を通過するデバイスの3次元的な光の流れを解析することは難しく,実用的な解析法が存在しなかった。
そこで,研究グループでは,このようなデバイスの光応答を解析するための独自のアルゴリズムを用いて,発電性能を正確かつ高速に予測するシミュレーション技術を開発した。そして,この技術を,有機薄膜太陽電池の表面構造の設計に応用することで,入射した光を効率的に発電層に閉じ込めて吸収させるための最適な光制御構造を明らかにした。
研究グループが開発した光制御構造は,蛾の眼の表面で観察されるナノ構造を模倣したものであり,モスアイ構造と呼ばれる。この構造を用いることで,入射光を斜めに曲げて,繰り返し反射により発電層に閉じ込めることが可能であり,本来は発電にあまり適さない波長の光も,有効に発電に利用することができる。
この研究では,独自の設計により得られたモスアイ構造を実際に試作して,有機薄膜太陽電池の表面に導入することで,従来より大幅に高い8.3%(相対比)の発電効率の改善効果が得られることを実証した。
この研究でモスアイ構造を作成する際には,ナノインプリントを使用した。この方法は,大面積のモスアイ構造を安価に構築するのに適しており,将来的な産業応用にも向いているとする。今後,研究グループでは,提案した手法をさらに改良することで,実用化に向けた技術の確立を目指すとしている。