岡山大学の研究グループは,光応答性Cre-loxP システム(PA-Cre)とテトラサイクリン(Tet)誘導発現系システムのActb locusへの迅速なノックイン技術を組み合わせて,青色光/細胞種特異的なDNA組換え反応を可能とする遺伝子改変マウス(TRE-PA-Creマウス)の作製に成功した(ニュースリリース)。
Cre recombinase(Cre)–loxP 部位特異的 DNA 組換え酵素反応は,標的遺伝子の塩基配列をゲノムDNA上から除去,または挿入するための強力なツールだが,これまでこれを時間的に制御する方法には課題があった。
2016年に生体内遺伝子の機能解析技術として“青色光を用いて人為的にコントロールするCre–loxP”システムが報告された。この系は,分裂した不活化CreリコンビナーゼのN末端側断片とC末端側断片に光スイッチタンパク質を連結し,光照射によりこのタンパク質が結合することにより活性化Creリコンビナーゼとして働くことができる。
Creの働きを光によって生体内でもコントロールできれば,狙った生体組織や細胞を標的として,任意のタイミングでDNA組換えを誘導することが可能となり,遺伝子解析技術の可能性を広げることができると考えた。
まず,PA-Creシステムとテトラサイクリン誘導発現系(Tet-On/Off)システムを組み合わせたベクター(TRE-PA-Creベクター)を作製し,βアクチン遺伝子座への迅速なCas9ノックイン技術を用いて受精卵に注入した。
生まれてきたマウスをゲノムDNAシークエンス解析により,TRE-PA-Creベクターがβアクチン遺伝子座導入されたマウスを得ることに成功した(TRE-PACreマウス)。これらのマウスが実際にTet-OffシステムにおけるtTAにより断片化Creを作り,青色光に応答して活性化型Creとして働くかを評価するために,TRE-PA-CreマウスをCreによりtdTomatoを発現できるROSA26-loxP-stop-loxP-tdTomato(Rosa26-tdTomato)マウスと交配した。
交配してできたマウスをTRE-PA-Cre:ROSA26-tdTomatoマウスとし,このマウスにtTA発現ベクターを迅速に肝臓へ導入するHTV法により尾静脈注射を行なった。その後蛍光灯または青色LED光下で照射を行ない,注入から24時間後に肝臓を摘出し,顕微鏡下でtdTomatoの発現観察を行なった。
蛍光灯下においたマウスの肝臓ではtdTomatoを発現しなかったが,青色LED光下においたマウスの肝臓ではtdTomatoが強く発現した。このことから研究グループが作製したTRE-PA-CreマウスはtTA存在下で外部光源による非侵襲的な照射でDNA組換えを誘導可能であることを証明した。
TRE-PA-Creマウスの使用により非侵襲的に,生体内細胞種特異的かつ時空間的な生体内遺伝子操作による機能解析が可能になるとしている。