豊橋技術科学大学の研究グループは,炭素原子1個分の薄さでできたシート素材,グラフェンを用いた検査チップを開発した(ニュースリリース)。
ごく微量の血液や尿などの体液から病気の検査が行なえるようになれば,簡単・迅速・安価に体調管理が可能になる。半導体マイクロマシン技術を用いて形成したフレキシブルに変形する薄膜の上に,バイオマーカーを特異的につかまえて,病気の有無を判断する検査技術が研究されている。
研究グループでは,マーカー分子が吸着したときに発生する膜変形を色の変化として検出するセンサー技術を開発している。このセンサー素子はバイオマーカーを吸着する膜を薄くするほど感度を向上することができるため,原子一層で構成されているグラフェンと呼ばれる膜厚1nm以下の材料を用いることで,センサーの感度を1000倍以上に向上することが期待される。
しかし,グラフェンをブリッジ状に架橋した従来の報告では,分子が架橋グラフェン上に物理的に吸着した際の変化を測定しており,測定対象の分子を特異的に検出することが困難だった。分子を認識して特異的に結合する抗体の修飾は一般的に溶液中で行なうため,この溶液処理中にグラフェンの架橋構造が破壊されることが原因と考えられている。
そこで,研究グループでは,溶液処理に耐えうるグラフェンの架橋構造として,グラフェンシートで基板の凹凸構造を覆ったトランポリン構造を作製し,グラフェン上に抗体分子の修飾を行なうことができた。抗体分子でグラフェン表面を機能化することによって分子を認識する能力が与えられ,バイオマーカーを特異的に検出可能な超高感度バイオセンサーが実現できた。
また,グラフェン表面に結合したバイオマーカーを検出する技術は,研究グループ独自の光検出技術が用いられている。架橋グラフェンと半導体基板の間に作られる1μm以下の隙間では,光の干渉作用により隙間の距離によって色が変化する。
この効果を利用して,検体溶液中での架橋グラフェンへの分子が吸着する様子を色変化から明らかにした。今回開発したバイオセンシング技術により,単位面積当たりの感度が従来センサーと比較して2000倍に向上すると期待される。
研究グループは,血液検査のほかにも,においや化学物質を検出する化学センサーを研究中で,IoT社会に貢献する新しい小型センサー装置に適用可能であると考えているという。
またグラフェン表面に修飾するプローブ分子を付け替えることによって,様々なバイオマーカーを検出するとともにウイルスの検出などへの応用が可能になるとしている。