熊本大ら,スピン状態を変える金属錯体を合成

著者: higa

熊本大学,東北大学の研究グループは,室温で二酸化炭素を吸着し,吸脱着に伴ってスピン状態を変化させるコバルト(II)錯体の開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,有機溶媒やガスなどの化学物質の捕捉を目的とした化合物である多孔性材料の開発が精力的に行なわれている。中でも,金属-有機複合骨格(MOF)は代表的な多孔性材料として挙げられ,世界中で研究が進められている。これら多孔性材料は,物質の捕捉が可能なことから,センサーや物質貯蔵などの材料として注目されている。

一方で,センシング材料の開発に向けては,有機溶媒やガスなどの“化学的刺激”を駆動力とした電子状態変換が着目されている,金属錯体の構造や電子状態にあまり大きな影響を与えない二酸化炭素や酸素,窒素のような一般的な微小ガス分子では,その報告は限られている。すなわち,ガス分子を標的とした電子状態変換はセンサーとしてのみでなく,新奇機能性材料としても興味深い研究課題となっている。

この研究では,外部刺激のエネルギーが比較的小さくてもスピン状態の変換が可能なコバルト(II)イオンに着目し,ガス応答での電子状態変換を目指した。カルボン酸を置換基として導入したターピリジン配位子を用いてコバルト(II)錯体を合成した。この化合物は,錯体分子が分子間相互作用で集合することで,その集合体が擬似的な“細孔”を形成する。

合成直後は,この細孔には水分子が入っているが,高温で加熱して水分子を除いた後でもこの穴は保たれていることが分かった。そこで,一般的に身の回りに多く存在する酸素,窒素,二酸化炭素の吸着実験を行なったところ,二酸化炭素のみを選択的に吸着することが分かった。

また,スピン状態の測定を行なったところ,水分子を取り込んでいる状態では,コバルト(II)錯体は300K(27℃)までの低温度領域で低スピン状態だが,水分子を除くと,400K(127℃)で高スピン状態から100K(-173℃)以下で低スピン状態に徐々に変わる熱誘起スピンクロスオーバーを示すことがわかった。

さらに,脱水後も保たれる細孔には最高2分子の二酸化炭素を吸着する。この二酸化炭素吸着は,コバルト(II)錯体の低スピン状態を安定化し,二酸化炭素分圧により高スピン-低スピン変換の転移温度を変化させている。室温では,高スピン状態と低スピン状態をスイッチすることが可能であることが分かった。

この研究成果は,金属錯体型ガスセンサーの開発へ向けた新しい分子設計の指針になることが期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 広島大、地球に豊富な元素マンガンで二酸化炭素を還元する光触媒系を開発

    広島大学の研究グループは、可視光照射により低濃度の二酸化炭素(CO2)を、有用な化学物質である一酸化炭素(CO)へ効率的かつ選択的に直接還元する光触媒システムの開発に成功した(ニュースリリース)。 太陽光を利用したCO2…

    2025.12.09
  • 東北大ら、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱による磁区識別法を開発

    東北大学、早稲田大学、大阪公立大学は、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)による新たな磁区識別法を開発した(ニュースリリース)。 交替磁性体は全体としての磁化がゼロでありながら、スピンの分極した電子バンドを持つた…

    2025.11.26
  • 京大,スピン歳差運動をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 近年,情報処理技術の高速化と省電力化を目指し,電子のスピン…

    2025.11.06
  • 京大,磁化歳差をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 従来,磁化の超高速ダイナミクスの検出には,磁気光学効果やT…

    2025.10.30
  • 北大,水素とナノファイバーを合成する光触媒を開発

    北海道大学の研究グループは,金属錯体色素を複層化した光触媒ナノ粒子とアルコール酸化触媒分子を連動させることで,持続利用可能な資源であるセルロースからクリーンエネルギー源となる水素と高機能材料となるセルロースナノファイバー…

    2025.08.28
  • 北大,光の回転が物質を動かす仕組みを解明

    北海道大学の研究グループは,光が物質に与える,回転の力(光トルク)の源である角運動量を,スピンと軌道の二つに分け,それぞれの損失量を個別に測定・解析できる新たな理論を提案した(ニュースリリース)。 光には,まっすぐ進むだ…

    2025.06.10
  • 東北大ら,反磁性体だが磁性を持つ薄膜を放射光分光

    東北大学,高エネルギー加速器研究機構,量子科学技術研究開発機構,台湾同歩輻射研究中心,仏ロレーヌ大学,仏SOLEIL放射光施設は,クロムを含む反強磁性体Cr2Se3に着目し,分子線エピタキシー法によってグラフェン上にCr…

    2025.04.22
  • 京大ら,光電流の計測によりスピンの読み出しを実現

    京都大学,量子科学技術研究開発機構(QST),電力中央研究所は,4H型炭化ケイ素(SiC)結晶中の原子の抜け穴に存在する一つの電子スピンの情報を,光照射により発生する光電流の計測(PDMR法)によって,室温下で電気的に読…

    2025.04.21

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア