東京工業大学,アイルランド ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの研究グループは,高分子電解質を界面活性剤として用いたシャボン玉を鋳型として,レーザーの低密度ターゲットとなるスズ薄膜球を作成することに成功し,レーザーの照射により金属スズと変わらない13.5nmの極端紫外線の発光を確認した(ニュースリリース)。
高強度レーザーを集光して物質に照射すると,高温高密度状態を作ることが可能であり,この状態からは電子,イオン,X線などの量子線が高輝度に発生する。こうした方法は,レーザープラズマ方式と呼ばれる。レーザーのターゲットとしては,低密度材料の方が吸収の効率が良いため,軽石のように穴の多い多孔質材料がしばしば用いられる。
このような大型加速器のコンパクト化を目標とした研究開発の一方で,レーザープラズマ方式の初の社会実装として,これよりも出力が弱いレーザーを用いた,13.5nmの光源による半導体集積回路の製造が始まった。13.5nmという波長は,X線よりもやや長波長の極端紫外線(EUV)の範囲にある。
現在実用化されているEUV光源では,液体金属スズにプレパルスを照射して低密度化させている。開発段階では,この低密度化のプロセスで確実性の問題が生じ,光源開発が大幅に遅れた経緯がある。また次世代の6.x nm光源で用いられるガドリニウムは,高融点で液体金属化が困難であり,大型加速器によるリソグラフィーが提案されている。
こうした背景から,研究グループでは長年にわたり,レーザーターゲット用の低密度材料を開発してきたが,その製造コストや大量生産性に課題があった。
この研究では,シャボン玉という,容易かつ大量に製造できる低密度構造に着目した。シャボン玉の界面活性剤として高分子電解質を用いることで,安定性を向上させ,これを鋳型とすれば,レーザーターゲットとなる極低密度材料の大量生産を低コストで実現できることを示した。
このシャボン玉にスズナノ粒子を被覆して低密度スズ膜を形成させ,さらに重ね塗りしてスズの被覆量を増やした。こうして作成したスズ薄膜球を乾燥させたのちに,Nd:YAGレーザーを照射した。
その結果,最新の半導体リソグラフィーに用いられている13.5nmの発光を確認することができ,発光量についても,金属スズにレーザーを照射した場合と同レベルを達成できた。
今回の手法は,さらに次世代の6.x nm光源の実現,さらに短い波長であるX線の高輝度化,がん治療用の炭素イオンビーム発生装置のコンパクト化も期待されるとしている。