東京理科大学の研究グループは,単純なフッ化アシルを出発物質として,10種類以上の複雑なフッ化アシルを得ることに成功し,フッ化アシルをフッ素源として利用できることを示した(ニュースリリース)。
フッ素を含む有機化合物は自然界にはほとんど存在しないため,合成においてはフッ素化が必要となる。しかし,フッ素源として用いられるフッ素ガスやフッ化水素は毒性や腐食性が強いため,取り扱いやすく反応性の高いフッ素化剤の開発が待たれている。
研究グループはまず,フッ化ベンゾイルと無水安息香酸は,フッ化アシルと酸無水物と同様の反応進行を示すという作業仮説に基づき,フッ化ベンゾイルと3,5-ジメチル-無水安息香酸を出発物質として,反応条件の最適化を行なった。
その結果,二座ホスフィンを配位子(特定の受容体に選択的に結合する物質)とした場合は概ね良好な触媒反応を示したが,反応性や入手容易性などを考慮した結果,DPPBを配位子として用いることにした。反応温度および無水安息香酸の量についても検討し,無水安息香酸をフッ化ベンゾイルの3倍量で80℃という条件で,収率71%を達成した。
次に,得られた最適化条件の下で,パラジウム触媒によるフッ化アシルの生成という観点から,基質適用範囲の探索を行なった。その結果,ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)/DPPBを触媒とした際,多様なフッ化アシルが生成された。ベンゼン環の4位には,メトキシ基,チオメチル基,ハロゲン基など,電子供与基と電子求引基の両方があり,これらは触媒条件下でも耐性があり,フッ化アシルを生成した。
生成されたフッ化アシルのいくつかについては,アシル交換反応についても調べたところ,4-メトキシベンゾイルフルオリドは3,5-ジメチル-無水安息香酸のフッ素化に対する反応性は低く,電子求引基を持つフッ化ベンゾイルおよび2-ナフチルフルオリドでは反応性が高く,43~70%の収率を達成した。
この反応では,入手することが容易なフッ化アシルを出発物質として,より複雑なフッ化アシルを得ることができるため,フッ化アシルにより一層の価値を付加する。また,この成果はフッ化アシルをフッ素源として利用できることを実証したという点で,非常に示唆に富んでいる。
今後,この研究で見出した現象に基づいた触媒設計や反応設計を行なうことで,これまでにない新しいフッ素分子の合成方法を提供できる可能性があるとしている。