九州大学の研究グループは,暗所におかれた植物でグルコシノレートが著しく減少することを視覚的に捉えるとともに,このグルコシノレート量減少が加水分解酵素ß-グルコシダーゼ(BGLU)30の働きによることを明らかにした(ニュースリリース)。
アブラナ科植物が作るグルコシノレートは硫黄を含む代謝物で,硫黄の貯蔵や病害虫に対する防御物質として働くとともに,発がん予防効果を示す。近年,生体分子の組織内分布を可視化する手法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析イメージング(MALDI-MSI)が医療分野を中心として注目されているが,葉のような薄い組織を持つ植物では試料調製が困難であることから報告例が少ないのが現状だった。
研究グループは表皮を剥離した葉を用いてMALDI-MSIを行なうことにより,葉の内部にある複数種のグルコシノレートを可視化した。また暗所下ではグルコシノレートが減少し,その減少がBGLU30の働きによることを明らかにした。
光条件の違いによるグルコシノレート量の調節機構に関する新しい発見となる。この発見は植物の環境適応機構を理解するだけでなく,栄養価を高めたアブラナ科野菜の作物育種,栽培法を介しての農業の省力化や,人間の健康増進に寄与することが期待される。
また今回の手法を応用することで,他の代謝物の組織内分布も可視化できるという。約20万種以上あるといわれる植物代謝物が蓄積する場所を可視化することで,それぞれの代謝物の植物体内における働きをより深く理解できれば,蓄積量を調節する技術にも繋がるとしている。