京都大学の研究グループは,微細加工技術を駆使して,ヒトの角膜構造を細胞培養系で再現するデバイスの開発に成功した(ニュースリリース)。
透明な組織である目の角膜が病気になると,濁るなどの視覚障害が起き,時には失明などの可能性がある。そのような病気を治療するために,点眼液などの治療薬が開発されているが,実験動物との種間差だけでなく,目のまばたきの頻度にも違いがあるため,ウサギなどの実験動物とは,ヒトへの効能や毒性が予想できなかった。
そこでこの研究では,角膜における薬剤透過試験や毒性試験を行なうことが可能な生体外ヒトモデルを開発するために,ヒト角膜上皮細胞をマイクロ流体デバイスに導入した新しい実験系,「角膜・オン・チップ」の開発に取り組んだ。
研究グループがこのチップを開発するにあたって(1)薬剤の角膜上皮透過性試験,(2)まばたきによる角膜上皮細胞へのずり応力印加,(3)ずり応力による角膜上皮の高機能化,を目指した。まず,このチップを構成する材料として,生体適合性が高く,ガス,光透過も高いシリコンゴム材料のPolydimethylsiloxane(PDMS)を使用した。
また,マイクロ流体デバイス内に多孔膜を設置し,その上で角膜上皮細胞を培養することで,角膜上皮細胞による膜形成と薬剤透過性の評価を可能にした。更に,まばたきにおけるずり応力を再現するために,双方向に駆動可能なシリンジポンプを使用した。
作成したチップ内で培養したヒト角膜上皮細胞(HCE-T)における膜機能としての評価を免疫細胞染色により確認した。膜機能として必要なZO-1タンパク質が培養7日目で強く発現していることが確認でき,また,従来のトランスウェルを用いた培養と比較しても,その発現が強くなることが確認できた。
次に,双方向のずり応力が角膜上皮細胞の成熟化に与える影響について,免疫細胞染色により確認した。角膜成熟化マーカーであるCK-19タンパク質が,双方向のずり応力を印加することによって,発現が強化されることが確認できた。
これらの結果から,この研究で開発した「角膜・オン・チップ」は,角膜をより機能的な状態で培養できることを確認した。
この研究では,角膜構造だけでなくてまばたきの動きも再現した生体外ヒトモデル「角膜・オン・チップ」の開発に成功した。このチップは,従来の動物実験では困難であった点眼液の薬効・安全性・毒性のヒトへの影響を予測する新規方法として期待されるとしている。